【小説】『タイタン』を読みました。SFとしてすごく面白いけど、アレ? なんか足りてないぞ?

 ご無沙汰しております。最近ポケモンSVしかやっていない者です。いやーランクバトルが白熱し過ぎて読書とか全然していない。

 そんなこんなで積読は増えるばかりなのですが、そもそもポケモンSV発売前から積読していた小説がいつの間にか文庫化していまして、いやさすがに単行本を買ったのだからいい加減に読まなければ、ということで毎日の仕事の行き帰りの電車の中で少しずつ読んでいきました。……まさか一冊読むのに一か月かかるとは思わなかった。

  書籍情報

  著者:野崎 まど

 『タイタン』

  講談社より出版

 (文庫版は講談社タイガ)

  刊行日:2020/4/22

 (文庫版:2023/1/17)

  あらすじ

 今日も働く、人類へ

 至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は ≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果【ないしょうせいか】のもとを訪れた、世界でほんの一握りの ≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。「貴方に ≪仕事≫を頼みたい」彼女に託された ≪仕事≫は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった――。アニメ『バビロン』『HELLO WORLD』で日本を震撼させた鬼才野﨑まどが令和に放つ、前代未聞の超巨大エンターテイメント

 人工知能もののSF作品。人工知能を扱ったSFはこれまでも多くの作品がありましたが、この作品では病んだ人工知能をカウンセリングするといった、ありそうで実はあまりなかったかも? しれない題材となっている。

 社会システムのすべてが高度AIタイタンに依存した近未来において、そのタイタンが人で言ううつ病状態に陥り機能低下してしまった、というのがこの『タイタン』のメインとなる話。

 もちろん社会システムを担っているわけですから、機能低下すれば人々の生活は不便になる。現代の感覚でいうと通信障害でネットが使えなくなるみたいなものだろうか。一刻も早く復旧しなければならないが原因がわからないので、違ったアプローチとして心理学に照らし合わせてみる。

 そういった人工知能×心理学で一本のSFに仕上げたのが今回の『タイタン』という作品になるかと。

 SFならではという部分では、通常のカウンセリングならば仕事で病んだ人とカウンセラーとで診察していきますが、そこは相手がAI、カウンセリング以前に人工知能を人格化する、というところから始まる。人と人工知能との差、ギャップを心理学を題材にして描いている点がまず面白い。そして診断で判明する原因が人間で言うところのこういう症状になるのか、という着地点が斬新で面白いところですね。

 そして人工知能とのカウンセリングの過程において、この作品のメインのテーマとなる「仕事とは何か?」という問いの答えを物語を通して出していく。

 こんな感じで、人工知能×心理学の題材で「仕事」というものに問いを投げかけるこの作品は、個人的にアイディア勝ちといいますか、SFとして素晴らしい着眼点だと感じましたね。

 とはいえ作者はあの野崎まど。野まど作品としていろいろと期待せずにはいられない。デビュー作の『[映] アムリタ』でもそうですし、ライト文芸の集大成ともいえる『2』、SF作家としての才覚をみせた『know』や怒涛の展開のアニメ映画『HELLO WORLD』などなど、後半で意外な方向に話が進んでいくことに定評がある作家さんなので、今回の『タイタン』も後半で何を見せてくれるのか楽しみにしていました。

 まあ……過去には『正解するカド』とか『バビロン』とか、明後日の方向に飛んで行ったどんでん返しもあるのですけどね。そういう意味ではよくも悪くも後半何かを仕掛けてくる(やらかしてくる)という作風ですかね。

 その観点からいうと今回の『タイタン』は割と中盤から「そういう方向性になるのか!?」というちょっとした驚きはありましたね。ただ後半はそこまで突飛な展開になることもなく、全体としては文芸作品としての完成度を保ったままいいオチをつけられたのではと思います。結末も意外といえば意外ですけど、割と腑に落ちるラストだったのではないでしょうか。

 ただこれまでの野まど作品と比べるとちょっと控えめだったかな、という感想が否めない。いやまあ『正解するカド』とか『バビロン』のようなトンデモ展開されても読む側としては困るのですけど、でも野まど作品の作風を期待していた側としてはもっとはじけてほしかったなー、という印象でした。

 この『タイタン』という作品、SF作品や文芸作品としてのクオリティは素晴らしいのですけど、野崎まど作品としてみると「なんかもの足りねぇな……」という感じになるのはなぜだろうか?

 なんでしょう、悪い意味ではなく、普通の小説になった感じですかね。いや面白いんですけどね。野まど作品としてみるとハジケ具合が足りない。

 でもそれはそれで一般向き野崎まど作品といえるかもしれない。多分野崎まど作品のよくも悪くもトンデモ展開で楽しめるのは玄人だけかもしれませんね。

 そんなこんなで最新作にして野まど作品入門にふさわしい『タイタン』でした。

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