【小説】『探偵AIのリアル・ディープラーニング』を読みました。今の時代だからこそ楽しめる作品もある

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2018年9月12日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054886972638

 たまにはミステリー作品でも。そう思い至り手に取ったのが『探偵AIのリアル・ディープラーニング』でした。結構最近の小説です。

 基本的な書籍情報。

  著者:早坂吝

 『探偵AIのリアル・ディープラーニング』

  新潮社 新潮文庫nexより出版。

  刊行日:2018/06/01

  あらすじ

 人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。「探偵」と「犯人」、双子のAIを遺して――。高校生の息子・輔(たすく)は、探偵のAI・相以(あい)とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI・以相(いあ)を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。次々と襲いかかる難事件、母の死の真相、そして以相の真の目的とは!? 大胆な奇想と緻密なロジックが発火する新感覚・推理バトル。

 今までにありそうでなかった(私が知らないだけかも)探偵役が人工知能、AIの推理小説。連作短編の形式なのでバラエティ豊かなミステリーを多く楽しめる作品であると同時に、ライト文芸として各登場人物もキャラ立ちしていてとても読みやすいです。

 また人工知能に関するネタがうまい具合にミステリー要素と融合しているところが面白い。人工知能なので演算能力は人間以上のパフォーマンスを発揮しますが、しかしまだまだ発展途上の技術ですので、見当違いな推理をしたり場にそぐわない発言をしたりなど、ときには人間以上のポンコツぶりを発揮します。ただ人工知能も機械的に学習していきますので、経験値がそのまま能力の成長となり、物語が進むにつれて推理は冴えたものとなっていきます。

 これまでSF作品等で人工知能ネタに触れている身としては、フレーム問題の回避方法やシンボルグラウンディング問題による事件などのシーンでは「そう来たか~!」と思わず唸るほどでした。いや完全にアイディア一発勝ちみたいな作品でした。ミステリー作品としても読み応えがある内容です。

(ストーリーについては好みが分かれるかも。「これ収拾つくの? もしかしてシリーズもの?」と思いきや後半でソードマスターヤマト張りの敵対組織のメンバー退場バーゲンセールをし打ち切りエンドっぽいクライマックスをしたのに、オチでは続編が出そうな雰囲気を漂わせていて綺麗に終わったのかどうなのかよくわからない。話としては区切りがついているけど……)

 さて、2020年に迫ろうとしている今日この頃、人工知能は現実でも実にホットな話題だと思います。もうすでに製品やサービスとして人工知能が登場していますしね。様々な機会で人工知能を見かけるようになった近年、人工知能技術の進化はまさに日進月歩といえるでしょう。

 ただ、そういった現在進行形で発展している最新ネタって、実は鮮度があると私は考えています。つまりは同時代性のこと。

 人工知能の話でいいますと(私自身そこまで人工知能についての造詣があるわけではありませんが)、現在は第三次AIブームと言われているそうで、2045年には人工知能は技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えるそうです。人間を凌駕した高度AIが誕生し、社会が激変するとのこと。しかしこれ、本当にこの通りに実現するのでしょうか?

 たとえば、技術進歩が想像よりも早く発展した場合、技術的特異点(シンギュラリティ)は2045年ではなく2030年代に起こる可能性だってあります。また逆に、人工知能の研究が頭打ちになり、これ以上の発展は望めないとして2020年代で技術が頓挫する可能性も当然あり得ます。

 予定よりも早く発展した場合、作中の時代を現実が追い越してしまい、近未来のお話のはずなのに技術は劣っている、という事態になるかもしれません。また技術が停滞したにもかかわらず、作中の時代(現実と比べて過去)では高度に発展している事態になりかねません。

 ここで作品を例を出しますと、『ソードアート・オンライン』(著者:川原礫)でしょうか。有名な作品です。

 この『ソードアート・オンライン』の劇中の時代が2022年となっており、フルダイブのVRゲームの物語となっています。この作品が最初に書かれたのは2000年代初頭。つまり20年後の近未来を描いたSF作品となります。

 そして今現在は2018年。あと4年で『ソードアート・オンライン』に追いついてしまいます。では果たしてあと4年でフルダイブのVRは実現するのでしょうか? 2010年代ではVRゲームというものが登場しましたが、それはあくまで視覚的なもので、脳の信号をデジタル化して感覚すべてを仮想現実にシフトするということは、素人の考えではありますが実現はしないでしょう。

 また2020年代を舞台とした作品ですぐ出てくるものが、『虐殺器官』(著者:伊藤計劃)ですかね。ゼロ年代最高傑作のSFです。9.11後、テロが激化した世界でテロ対策として監視社会となった設定です。幸い2010年代ではサラエボの街は消失していませんが、しかしイスラム国の勃興などの世界的緊迫感としてはニアピンしている面もあります。ですがやはり、徐々に作中の情勢と現実の情勢にズレが生じていると思います。あと人工筋肉とかの技術が実用化されるのもちょっと厳しいかもしれませんね。

 そして目前に迫った2020年代だけではなく、もうすでに追い越してしまった名作SFも多数あります。『2001年宇宙の旅』とか(パッと出てきたけど、内容が全然思い出せないので割愛します)。

 もちろんそれらの作品が実際に執筆された当時は、しっかりとした科学考証のもと緻密な未来予測をしていますし、なにより予言ではないので完全に言い当てることは不可能です。現実の時代と比較してリアリティがないというのはお門違いも甚だしい。それに過去の名作に触れる際に、ifとしての未来という捉え方をすればいいだけです。物語はあくまでフィクションであって、リアルではありません。

 ではなにが言いたいのかというと、現実の時代が作中の時代に追いつくことによって、「あり得るかもしれない未来」から「あり得たかもしれない過去」に変わってしまうということ。捉え方が変われば当然作品の印象も変化してしまいます。

 未来に向けて夢想するのと、過去を振り返りたらればしてしまうのは、全然意味合いが違ってしまいます。

 そういった意味では、『ソードアート・オンライン』も『虐殺器官』も、もうすぐ「あり得たかもしれない過去」という印象に変わってしまう作品でもありますし、なんなら『2001年宇宙の旅』はもうすでに変わってしまった作品です(相変わらず内容思い出せませんけど……)。

 そういうこともあり、先程、現在進行形で発展している最新ネタには鮮度がある、と言ったのです。

 そしてそれらの近い未来を題材にした作品を一番アクティブに楽しむタイミングというのが、執筆された時代に作品に触れるということです。

 なので今回読んだ『探偵AIのリアル・ディープラーニング』という作品も、書き出しに「ほんの少し手を伸ばせば届くくらいの未来……あるいは現在の話。」とある通り、かなり近い未来のお話です。さらに昨今の人工知能の発展に鑑みると、5年後、10年後では作品から受ける印象が変わってしまうでしょう。

 そのため、この『探偵AIのリアル・ディープラーニング』という作品を素直に楽しむには、今まさにこの時代に読むのがベストです。最新ネタはリアルタイムで触れるのが一番いいです。

 というわけで、なんだか新潮社の回し者みたいな感じになってしまいましたが、タイムリーな作品に触れたことにより、作品の同時代性について考えるきっかけを得ました。そういう意味も含めて、今読んでよかったと思えた小説でした。気になった方は自分で買って読んでください。

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