【小説】『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』を読みました。完全にタイトルに釣られて読んだ

 いつものことながらあてもなくAmazonを彷徨っているときに、たまたまヒットした小説のタイトルを見て「これは買わずにはいられない!」と感じ、そのまま購入した一冊。今回は積読などせず届いてすぐ読み始めました。タイトルは『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』です。

  基本的な書籍情報。

  著者:葵 遼太

 『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

  新潮社 新潮文庫nexより出版

  刊行日:2020/5/28

  あらすじ

 ねーねーねー。高校三年生の朝は、意外な声に遮られた。狸寝入りを決め込む僕に話しかけてきた同級生、白波瀬巳緒。そして、隣の席の、綺麗な声が耳に残る少女、御堂楓。留年し、居場所がないと思った学校のはずなのに、気づけば僕の周りに輪ができていく。胸はまだ、痛む。あの笑顔を思い出す。でも、彼女の歌声が響く。ほんのり温かいユーモアと切なさが心を打つ、最旬青春小説。

 あらすじを読む限り、タイトルにそぐわない真っ当な青春ドラマもの。

 というかそもそもこのタイトルの元ネタが、アメリカのロックバンド「ニルヴァーナ」のギターボーカルであるカート・コバーンが遺した言葉。原文は確か「Nobody dies a virgin… Life fucks us all.」だったかと思います。

 カート・コバーンの名言をそのままタイトルにしているということもあり、小説『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』もバンドものです。ロックな小説です。

 ただ素直に言ってしまうと、小説の内容とカート・コバーンはそこまで関係あるものではありません。登場人物がカート・コバーンの名言を引用する台詞があるくらいで、ニルヴァーナもカート・コバーンも要素としては少ないです。

 むしろ題材ということであればレッド・ツェッペリンのネタの方が多いです。「レッド・ツェッペリン」は70年代に活動していたイギリスのバンドで、小説においてもことあるごとにツェッペリンの楽曲が登場します。……ならもうさ、いっそのことツェッペリンの何かをタイトルにすればいいのでは? と思わなくもなかったです。

 まあそんなニルヴァーナだろうがツェッペリンだろうが、インパクトのあるタイトルの音楽作品ではありますけど、実際に読んでみるとそこまで音楽推しバンド推しな内容ではなかったです。

 もちろんバンドものですので、音楽ネタやバンドネタは普通に登場します。しかしそういった部分のシーンは割とあっさりまとめられており、読む人を選ぶようなマニアックな内容にはなっていません。

 作中のバンドがどういったジャンルの音楽をやっているのかということも明かされず、演奏シーンもシンプルに描写しています。登場する楽器もギターはギターという感じで具体的なモデル名なども出てきません。表紙のイラストではストラトキャスターが描かれていますが、本編ではストラトという言葉すら出てきません。

 これは偏見かもしれませんけど、漫画でも小説でもこういったサブカルチャー系を題材にすると作者の趣味が全開になり、ペダンチックでマニアックな内容になってしまい、結果一部の人だけ受けるオタク作品になりがちかと。別にそれが悪いというわけではありませんけどね。

 音楽やバンドといった特定のジャンルを題材にしつつも、その題材はあくまで物語を構成する一つの要素に過ぎない、というかたちです。ネタとして深く掘り下げなかったからこそ、万人受けするよう広い範囲をカバーできた具合かと。まさに広く浅く、といったところですかね。

 ただ同時に、この物語は別に音楽やバンドを題材にしなくても成立してしまうかも、とも思いました。このバンド要素を別の何か、たとえばサッカー部とか文芸部みたいな部活動に置き換えたとしても、大まかなあらすじは合致してしまうかも。

 もちろんそうなると作中の内容は全然違うものとなってしまいますし、それこそそんなことを言い出したら世に出ている他の多くの作品も該当してしまいますけど、バンド要素を控え目にした分バンドものならではの物語が薄味ではなかろうか、というのが読み終わって感じた感想でした。まあそれを含めて広く浅くの万人受け作品ではあります。音楽やバンドはあくまで物語を描くための要素であり、メインとして見せたいものは少年少女の青春ドラマであると。……まあこういう感想を抱いたのは、完全に自分が楽器オタクであり悪い意味で貪欲に期待してしまっただけだと思います。

 そうそう、肝心の物語本編である青春ドラマですけど、とてもいいものでした。青春特有の爽やかさや苦味といったものを真正面から共感性のある筆致で描き、文体の読みやすさも相まって読みやすく楽しかったです。

 物語の傾向としては『君の膵臓をたべたい』みたいな、つまりはヒロイン死んじゃう系作品。ですがこの作品に関してはもう既にヒロインは亡くなっており、現在と回想を交互に描くことで、死後の喪失から主人公がいかに立ち直っていくかのお話になります。そういう意味では、「ヒロイン死んじゃう系」ではなく「ヒロイン死んじゃった系」(過去形)になるかと。感動系作品の王道的プロットを少し違った見せ方をした作品でもありますので、そういった部分でもまた読ませる面白さがありましたね。涙腺が弱い方は泣いてしまう作品だと思います。

 という感じで小説『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』を読んだ感想でした。

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