【小説】『消滅世界』を読みました。たまにはこういうSFもいいかも

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年9月8日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054891014534

 いつものことながらあてもなくAmazonのオススメ表示を彷徨っていた際に、ふと見かけた小説のあらすじを読んで「攻めてるなぁーコレ」と感じ、何も考えず深く調べずにポチっと購入して案の定積読した本を今回読みました。ようやく読みました……。いやよかったですよ。タイトルは『消滅世界』です。

 基本的な書籍情報。

  著者:村田沙耶香

 『消滅世界』

  河出書房新社 河出文庫より出版

  刊行日:2018/07/05

  あらすじ

 「セックス」も「家族」も、世界から消える……日本の未来を予言と話題騒然! 芥川賞作家の集大成ともいうべき圧倒的衝撃作。セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園で一変する…日本の未来を予言する傑作長篇。

 この小説は、第二次世界大戦により出生率が大きく下がったことが影響して人工授精技術が発展していったという設定で、史実から分岐したパラレルワールド的な世界観であり、物語の時代設定としては現代とそう変わらないかと思います。ただ作中で具体的な時代の表記がないので、普通に近未来SFとして読むことも可能です。

 人工授精技術の発展により性行為の意義が失われ、「性」に対しての価値観が大きく変化した中で主人公は従来の価値観を持つ家庭に生まれたことにより、物語では変化した価値観と従来の価値観とのギャップを際立たせるかのような内容となっています。

 性別や性欲、そして夫婦や子供などといった関係の変化を思考実験的に掘り下げていて、ある種哲学的な表現をされていたのが印象的でした。一方で人工授精などのメインギミックに関してそこまで科学的にアプローチしていないこともあり、SFではあるもののサイエンス・フィクション(Science Fiction)というよりはどちらかというとスペキュレイティブ・フィクション(Speculative Fiction)に寄せているような気がしましたね。エンタメ性のあるSF作品にはない文学っぽい意識高い感じがしました。いやまあ、ただ単にスペキュレイティブという言葉を言いたいだけですけど。

 物語後半では、あらすじにも登場する「実験都市」のパートとなります。「実験都市」では「楽園(エデン)システム」という新しい社会が形成されています。この「楽園(エデン)システム」というのは人工授精技術を活用した社会であり、人工子宮により男性であっても妊娠することができ、選出された市民は全員同日に受精処置が施され、都市の出生を完全にコントロールするといったものです。毎年同時期に誕生した子供は「子供ちゃん」と呼ばれ、社会の共有財産として専門の子育て機関に預けられます。そして全ての市民が「おかあさん」として「子供ちゃん」に愛情を注がなければならない、老若男女全員が母親となる社会です。

 この「楽園(エデン)システム」が描かれる実験都市パートはどことなく伊藤計劃の『ハーモニー』を彷彿とさせる雰囲気があり、ユートピアともディストピアともとれる絶妙に歪んだものとなっています。おそらく伊藤計劃作品が好きな方なら普通に楽しめる設定だと思います。というより自分がまさに「伊藤計劃っぽいなー」とニヤニヤしながら後半パートを読んでいました。

 加えて個人的には、この実験都市による「楽園(エデン)システム」のパートは、一つの見解をもらったような気がして、その部分も含めてより楽しめたような気がしています。

 というのも自分は以前、「子育ては親じゃなくて専門家がすればいいんじゃね?」と漠然に考えたことがあります。それはニュース等で虐待や育児放棄といった家庭の問題で子供が虐げられるのを見て、毒親は子育ての適正ないんだから適性のある人に任せればいいのでは、と感じたことが発端です。それに一ヶ所に集めて育てれば教育格差とかなくなるだろうし、なにより子供を隔離できるし(ザ・子供嫌い)。そういう感じの考えはなんだかSFとして考察を広げられるのではと思い創作ネタとしてメモして、そしてそのまま使うことなく今の今まで忘れ去られていたという次第です。

 そして実際にそのネタに近いアイディアで描かれているのが『消滅世界』の「楽園(エデン)システム」だと感じました。もちろん『消滅世界』で扱っているテーマのメインではなく、子育てに関する設定はメインテーマから派生したものであり本筋ではないのかもしれませんが、自分としては以前漠然と抱いた考えを刺激する内容であったためとても興味深い作品だった、というのが素直な感想でした。ほぼ人間工場のような環境であり普通なら嫌悪感を抱くものかと思いますが、しかし良くも悪くも描いているためその歪み方が面白いといったところでしょうか。

 いろいろとセクシャルな内容のSF小説であり、こういった物語はなかなか読む機会がなかったのでとても新鮮な気持ちになりましたね。そして解説においてフェミニストSFという言葉が出てきて、「へぇーSFにはそういうサブジャンルもあるのかー」とまたひとつSFについて勉強になりました。(ググったら普通にWikipediaの記事があったのであとで読んでみようと思います)

 その解説では、『女性の側からは主として「ユートピア小説」、男性からは「ディストピア小説」といった評価があったと側聞する』といったことが書かれています(解説より一部抜粋)。こうした男性と女性で作品に抱く印象が変わるというギミックも、自分にとっては斬新なものであり感銘を受けましたね。

 ただ伊藤計劃作品好きの自分としては、『ハーモニー』が「ユートピアの臨界点」と評されたように、この『消滅世界』も「ユートピアの臨界点」の一種のような気がしました。ユートピアでもありディストピアでもある。これからの未来において到達し得るかもしれない世界の姿。そんなメリーバッドエンドのような受け手の解釈次第でいかようにも印象が変わるSF作品というのも悪くないと思います。というより普通に好きです。

 今回はなかなかいい掘り出し物だったような気がしています。内容的に決して万人受けはしない、読む人を選ぶ作品ですが、読んでよかったです。何と言いますか……Amazonのレコメンド機能は侮れないな、という気持ちです。

 また良作を発掘するためにAmazonを徘徊してきます! では!(謎のAmazon推しオチ)

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