【小説】『サマータイム・アイスバーグ』を読みました。ライトノベルというよりはジュブナイルなSF

 毎年夏ごろになると、ガガガ文庫の新人賞である小学館ライトノベル大賞の受賞作品が書籍化される時期でもあります。

 多くのラノベレーベルが新人賞を開催して期待の新人をデビューさせていますが、その中でも毎年チェックしている新人賞の一つがこの小学館ライトノベル大賞だったりします。

 いやほら、ガガガ文庫ってライトノベルの中でも比較的SF作品を多く取り扱っている、SFファンとしては貴重なレーベルでもありますからね。何気に毎年何かしらのSFを受賞させている印象です。

 そんなこんなで、今年の受賞作品も例年通りSF作品が受賞していましたので、さっそく読んでみました。

  書籍情報

  著者:新馬場 新

 『サマータイム・アイスバーグ』

  小学館 ガガガ文庫より出版

  刊行日:2022/7/20

  あらすじ

 その恋心だけは、あの夏で凍ったままーー 真夏に突如現れた巨大な氷山が騒動になる中、三浦半島にある高校に通う進たちは、鬱屈とした夏休みを送っていた。かつては仲の良いグループだった進と羽と一輝だが、一年前のある事故が原因で、今はぎこちない関係が続いている。幼馴染を一時的に失い、無力感に苛まれる進。外見は美人で男子からも人気があるが、弱く、ずるく、そしてそれを人のせいにしてしまう自分が好きになれない羽。秀才で文武両道の優等生だが、自身ではどうすることもできない悩みを抱える一輝。ある夜、氷山の現れた海岸で進は一人の少女と出会う。身元の分からない謎の少女は、一年前の事故以来、昏睡から醒めない進の幼馴染とそっくりで……。少女の正体が分からないまま、「楽しい夏を過ごしたい」という少女の希望を叶えるため、進たちは奔走することに。しかし、氷山出現の秘密が明らかになるにつれ、進たちの手には負えない大きな力が少女に迫る。少女を元いたところに帰すためーー。それぞれの淡い恋心や悩みを抱えたまま、進たちは氷山を目指す。第16回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞。煌めく夏の青春の輝きを閉じこめた、宝石のような物語!

 所謂、ひと夏の青春SFといったところ。同じガガガ文庫だと『夏へのトンネル、さよならの出口』とかそうですし、それ以外でも多くの作品がライトノベルとして発表されていまして、ひと夏の青春SFという題材はライトノベルとして描きやすいジャンルなのかもしれません。何気に小学館ライトノベル大賞の過去の受賞作品を調べてみても、意外とひと夏系の作品が多く、ガガガ文庫としても定番なのかもしれませんね。

 自分もひと夏の青春SFを見つけ次第読み漁ってはいますが、今回読んだ『サマータイム・アイスバーグ』は、要素だけ見れば定番ネタですが、しかしながら他のひと夏系との違いも見えてくる、そんな作品でした。

 まず読んでいて気になったのが文体。一見なんてことない、ライトノベルとしても違和感のない文体ではあるのですが、どことなく海外小説を翻訳したかのような文章である感じがしました。

 自分はそこまで頻繁に海外小説を読む方ではないですが、それでも名作SFのいくつかは読んでSFファンとして一応おさえています。ただ自分は翻訳された文体が苦手でして……妙な読みにくさを感じます。

 例えば視点がコロコロ変わる点とか。ジャンルとして群像劇といった複数人の視点を描くものはありますけど、海外の小説って文章の中でも平気で人物の視点を変えたりするイメージがありまして、読んでいて混乱することがあります。三人称の多視点とか神視点といえばそうですけど、感覚として、日本国内の小説では群像劇だろうか三人称多視点であろうが、章や空行などでわかりやすく視点が切り替わる印象があって、読み手としてはとても読みやすいです。三人称でも単視点の連続みたいな。

 そういった面から今回読んだ『サマータイム・アイスバーグ』を読み解くと、人物の視点の切り替えがまさに海外小説っぽさがありましたね。章とか空行とかを挟まず切り替わる感じ。

 あと描写や表現なども、回りくどくてはっきりしないところも、なんだか海外小説っぽさを感じました。ほら、海外小説でも酷いものになると、比喩表現が比喩しすぎて何を言いたいのかサッパリわからなくなっている表現とかありますしね。『サマータイム・アイスバーグ』はそこまで酷くはないですけど、時折気障な表現とかが悪目立ちしている印象を受けました。

 ちなみに作中では海外の名作SFのネタが挟まっていまして、『サマータイム・アイスバーグ』という作品は海外小説の影響を強く受けているんだろうな、と感じさせるものがありましたね。

 そういう意味でも、ライトノベルを読んでいるというよりは、どちらかというと翻訳された海外のジュブナイル小説を読んでいるような感覚になる作品でした。

 ただ、当たり前ですけど海外小説の舞台や登場人物って当然のことながら海外なのですけど、でも物語の内容としてはライトノベルの定番であるひと夏の青春SFで、日本が舞台の日本人の少年少女が主人公なので、そういった意味であれば翻訳文体っぽい書き方のライトノベルという、かなり珍しい作品でもあるかと。この部分ではライトノベルでも海外小説でもない個性的なハイブリットになっていて、ほかのひと夏系とははっきりと違う点でもあるのかもしれませんね。

 肝心の小説の内容ですけど、「真夏の海に突如として氷山が出現する」というネタは、物語の導入としてとてもインパクトのあるものだと思います。そしてその氷山の出現をきっかけとして主人公たちの人間関係が変わっていくというのが話の筋の部分。

 ただ途中まではこの氷山の要素がただの舞台装置でしかなく、どちらかというとメインは主人公たちの青春模様であり、正直氷山の影は薄い。精々サブシナリオとして主人公たちとは関係ないところで氷山関係の話が地味に進んでいく程度。

 しかしながら終盤、おおよそページ数の残り二割程度になってきたあたりから主人公たちを巻き込んだ氷山イベントがあって、ここから一気に話が動き出すといったところですかね。方向性としてはセカイ系のSF。

 ただこれも個人的にストーリー構成が微妙だなと感じまして、というのも前述の海外小説特有の回りくどい表現もあり、本編のほとんどがグダグダな青春描写に割かれてしまっていて、せっかくのラストのクライマックスが駆け足気味になってしまったのは実にもったいない。これページ数が足りないとかではなく、むしろ途中のペース配分を間違えている感じの駆け足具合でしたね。まあ新人賞受賞作品で、応募原稿の制限の都合があるのでしょうけど、SFの題材が面白いだけにもったいなさを感じました。

 あと主人公たちの事情も半分くらい解決しないまま終わってしまったのももったいない。主人公をはじめとするメインの登場人物たちは掘り下げ甲斐のある設定を持っているのに、中途半端なオチで収まってしまったのはいただけない。中には完全放置の設定もあってその部分がとても残念でした。

 なんでしょう。本編の八割くらいは青春劇なのですけど、オチがSF要素メインになってしまったことにより、SFとしても青春劇としても中途半端な感じになってしまったのが否めないですね。

 ちなみにですけど、個人的にはサブヒロインがあまりにも口下手メンヘラ糞女で読んでいてイライラした。いや主人公も大概ですけど、でも主人公はまだ納得できるバックボーンがあって、作中でも中盤あたりから改善していくのですけど、サブヒロインに関しては最後まで面倒くせぇ女だった。

 という感じで、なんだか酷評みたいな感想になってしまいましたけど、これはあくまで翻訳文体が苦手な自分が読み、なおかつ登場人物との相性も最悪だったからこそ、全体を通して微妙な読後感になっているかと。

 自分の好みとかを抜きにして客観的にみれば、魅力的なSF設定と等身大の少年少女を描いたジュブナイル小説であり、粗削りではあるものの新人賞受賞も納得な内容だったかと思います。次回作に期待したいです。

 という感じで『サマータイム・アイスバーグ』でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です