【小説】『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』を読みました。SFミステリーだけどまさかのメタフィクション

 電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」を利用していると、セールやポイント還元に釣られてまとめ買いしたものの結局積読になってしまい、かなり時間が経ってから思い出したかのように(実際思い出したからですけどね)ようやく読み始める始末です。

 今回読んだものも、ずっと前に購入したものの長らく積読していた作品。おそらく何かのセールで買ったはずですけど、何のセールだったかはもう思い出せない……。

 まあそんなこともあって、BOOK☆WALKERの購入履歴を遡っていたときに、既読のステータスが並ぶ中にぽっかりと未読が混じっていたものですから、「いい加減読まなきゃ!」というのが今回です。

  書籍情報

  著者:芦辺 拓

 『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』

  東京創元社 創元推理文庫より出版

  刊行日:2016/4/28

  あらすじ

 蒸気機関を主な動力源とする大都会に暮らす少女エマは、空中船“極光号”の船長である父を迎えるため港への道を急いでいた。船内の一室で、ガラス張りの“繭”に封じられた少年を発見し、解放してしまったエマは、彼と共に、その場に居合わせた名探偵ムーリエに弟子入りして都市で頻発する不可能犯罪を調べることになり…。夢溢れる空想科学世界を舞台に贈る傑作本格ミステリ!

 この『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』という小説は、所謂スチームパンクに該当する作品。

 スチームパンクといえば19世紀をベースに蒸気機関などの技術が異常発達した世界観のことをいう。19世紀といえばイギリスの産業革命があったり、アメリカでは西部開拓や南北戦争だったり、日本に目を向ければ明治維新で近代化したりして、急速に変化したこともあってサイエンス・フィクションとして絶好の題材になる時代でもあります。「もしかしたらあり得たかも?」という視点のある種のレトロフューチャーとしての楽しみ方ができるジャンルですね。

 そういった近代化の時代や蒸気機関の異常発達などというビジュアル的なインパクトがあるためか、SFのサブジャンルのひとつでありながらファッションやアートの分野にも波及したジャンルでもあります。スチームパンクがコアで根強い人気があるのもこういった要素があるからかと思います。

 今回読んだ『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』も蒸気機関はもちろんエーテル科学もふんだんに盛り込まれていて、それはもうムンムンで怪しさ満点の実にスチームパンクらしいお話になっています。

 ただこの作品は、出版が東京創元社の創元推理文庫であることもあり、お話のメインはやはりミステリーとなる。スチームパンク特有の時代感もあって、シャーロックホームズ的な名探偵がいて、ワトソン的な語り部としての主人公がいる構図。まあこのワトソン役が見習い助手の美少女という点は、どちらかというとアニメ的な設定でもありますし、小説作品としてみると児童文学的な面もあるかもしれませんね。

 そんなこんなでミステリーがメインのため、スチームパンク要素はあくまで舞台装置ということになるかもしれない。とはいえスチームパンクの世界観でミステリーをやっているわけですから、事件のトリックなどは当然スチームパンクらしい空想科学な真相となっている。

 これがですね、冷静に読むと「そんなバカな」とツッコミを入れたくなる。作中で発生する難事件の真相も「さすがに無茶苦茶過ぎない?」と思ってしまうほどのトンデモミステリー。個人的にはエーテル万能過ぎと感じました。

 ただまあ世界設定のベースがスチームパンクであるので、普通のミステリーであればトンデモなトリックだとしても、この作品であれば作風に合致しているのでとくに問題はないですね。

 むしろミステリーでは定番ネタである不可能犯罪や密室殺人を、スチームパンクの観点からいかに解釈して描くか、という部分が重要なところとなっている気がします。間違っても読者への挑戦として推理するものではない。無理だから。後出しでスチームパンクなカラクリを出されるので当たるわけがない。ということでミステリー的な謎解きを期待する方には向かないミステリー作品といえるかもしれませんね。

 ただこういったスチームパンク的なトリックも実はミスリードであり、物語終盤にて大きなどんでん返しが待ち受けている。そしてこのどんでん返しがSFとして非常に秀逸だと感じました。

 とくに並行世界ならぬ並行地球みたいな展開は痺れましたね。「そうきたか!?」と。そこからはメタ的なクライマックスがあり、ラストにはガッツリメタフィクションとしての内容となっている。ある意味では叙述トリックの種明かしとも言えますし、実際そうなのですが、自分としてはメタフィクションとしての印象が強かったですね。読み終わっても「そうきたか……」という感想が漏れるほど。意外性が抜群過ぎる!

 ただまあラストでメタフィクション化するので、読後作品を振り返ってみるとメインのSFミステリー要素が茶番でしかなかったと思ってしまいますね。

 とはいえそのSFミステリーパートで描かれたスチームパンク的なトンデモトリックやトンデモ真相に対して「そんなバカな」や「さすがに無茶苦茶過ぎない?」と感じたのはある意味では正しかったのかも。だって終盤にメタ化するためのミスリードだったわけですから。

 そんなこんなで読後としては「ミステリーの皮を被ったメタフィクションなSF」という印象で、物語のジャンルだけではなく作品そのものがミステリー的に読者を欺いてくる、そんな作品でした。いやなんか、一本取られたって感じで、すごい作品でした……。

 という感じでスチームパンクミステリーの『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』でした。

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