【小説】『そいねドリーマー』を読みました。「裏」ではなく「夢」の話

 現在放送中のテレビアニメ『裏世界ピクニック』。原作小説を読んだことがあり、かつコミカライズもウェブコミック配信サイト「ガンガンONLINE」でちゃっかり連載追いかけています。

 まあなんですかね……アニメ版『裏世界ピクニック』って、原作小説にあるSF的な考察シーンをバッサリカットしちゃっていますし、コミカライズ版のようなホラー演出も控え目な感じでして、アニメ初見ではない身としては「どうなんだろうこれ?」と思いつつ毎週楽しみに視聴してます。たとえるなら去年の今頃くらいにアニメ放送していた『虚構推理』みたいな方向性のアニメ化なのかも。

 それはさておき、今や百合作家として活躍されている作者さんが単発で発表した単行本が、この度文庫化されました。……『裏世界ピクニック』のアニメ効果? かな? 

 ともかく、今回は『裏世界ピクニック』でお馴染みの作者さんによる百合作品『そいねドリーマー』について。

  基本的な書籍情報。

  著者:宮澤 伊織

 『そいねドリーマー』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2021/1/7

  あらすじ

 不眠症の女子高生・帆影沙耶は、どんな相手でも眠らせられる金春ひつじと夢の中で「恋人」として出逢う。人間が眠ると現れる世界〈ナイトランド〉では、人の心に取り憑く睡獣と、ひつじのように夢で自由に動ける能力者の戦いが人知れず続いていた。沙耶もそのチームに加わり、添い寝によって睡獣狩りをこなしていくことに。夢と現実を往還していく少女たちの戦いと恋の行方は? 『裏世界ピクニック』著者による百合SF

 あらすじでは思いっきり「百合SF」と書かれていますが、まあ確かにSFらしいといえばSFらしい作品。ただ、高度な科学考証を用いた狭義のSFというわけではなく、どちらかといえば広い意味でのSFといった具合。すこしふしぎであるかのようで、またちょっと違うような気もする。言うなればSFとファンタジーの境界に位置するかのような作風といえるかもしれません。それこそ『裏世界ピクニック』くらいのSF感。

 そのためSFとしてはかなりライトに楽しめるというか、小難しいことを一切気にせずに読める作品といったところ。あまりSFのことを知らない方にとっては「これってSFなの?」と感じられるかもしれませんし、所謂SF警察()にとっては「こんなのSFじゃない!」と憤慨するかもしれません。が、SF慣れしている方にとっては「SFだ」と感じるかと。昔のSFとかで「ファンタジーもホラーもミステリーも全部まとめてSFだ!」という感覚を知っている方にとってはSF作品といえるかもしれない。

 またこの作品はホラー要素も含まれています。ホラー要素というかホラー展開というか。得体の知れない敵との戦いは一見ファンタジーらしさもありますが、夢の世界ということもありこっちも相手もなんでもありな状態で、故に想像を超えた不気味さも見え隠れしてくるという具合。

 さらに夢の世界で活動するにあたり明晰夢にならなければならないのですが、その明晰夢が不安定でちょっとした要因で明晰夢が解け支離滅裂な夢に飲まれていく。そしてまた夢と現うつつとの境も段々と曖昧になっていく。こういった気づかぬうちに忍び寄る違和感は、まさに恐怖心を刺激するものであると感じました。

 ファンシーとホラーが表裏一体になっているといえるかも。題材的にも映画『パプリカ』を今風に描いた作品といえば伝わりやすいかもしれません。というか『パプリカ』からSFらしい凝った設定などを薄めた作品ともいえる。

 それこそこの作者さんの著作である『裏世界ピクニック』の裏世界を夢に置き換えたものが、まさにこの『そいねドリーマー』という作品になるのではと思いました。

 そうそう、百合作家としてお馴染みの作者さんなので、当然昨今流行りである百合要素をふんだんに盛り込んでいます。主人公の沙耶とヒロインのひつじのカップリングもつかず離れずというかツンデレというか、いい意味でのあざとさみたいなものもあって素晴らしい。

 またメインキャラが五人いて沙耶とひつじ以外のメンバーの百合百合もニヤニヤが止まらないといった感じです。とはいえGL(ガールズラブ)みたいなハードに性的なものではないので、百合ファンに限らず百合初心者の方でも楽しめると思います。

 百合的にもそうですし、SFとしても、あるいはファンタジーやホラーとしても、ラストに関してはちょっと不思議な感じに仕上げられていて、一見「終わり?」と思ってしまうのですが、しかしこれはこれである種の余韻を感じさせる結末でもあります。想像する余白を残した終わり方で、なんだかんだいって全体的に楽しめた気がします。

 という感じで、つまりは映画『パプリカ』を百合にしたのが『そいねドリーマー』という作品(たぶん違う)。あるいは『裏世界ピクニック』の「裏」が「夢」になったのがこの作品ということです。ハイ。

 割と短めな長編作品で、サッと読めるちょうどいいエンタメですのでどうぞ。

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