【小説】『リライト』を紹介。「SF史上最悪のパラドックス」は伊達ではない、時間SFの傑作

 本棚を整理していましたら懐かしい小説が出てきまして、「これは紹介したい!」と思える作品でしたので、今回はそのお話。タイトルは『リライト』です。某美少女ゲームでもなければ、某バンドの楽曲でもありません。傑作SFの方の『リライト』です。

  基本的な書籍情報。

  著者:法条 遥

 『リライト』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2013/7/24

  あらすじ

 過去は変わらないはずだった―1992年夏、未来から来たという保彦と出会った中学2年の美雪は、旧校舎崩壊事故から彼を救うため10年後へ跳んだ。2002年夏、作家となった美雪はその経験を元に小説を上梓する。彼と過ごした夏、時を超える薬、突然の別れ…しかしタイムリープ当日になっても10年前の自分は現れない。不審に思い調べるなかで、美雪は記憶と現実の違いに気づき…SF史上最悪のパラドックスを描く第1作。

 勘の鋭い方ならあらすじを一読しただけで思い当たるものがあるかもしれません。作中でも「未来人の少年」とか「ラベンダーの香り」といった描写も登場してきます。そうです。この『リライト』というSF小説は、巨匠 筒井康隆の名作『時をかける少女』を彷彿とさせる内容であり、『時をかける少女』のオマージュ作品といえるものです。

 筒井康隆の『時をかける少女』をバッドエンドにした感じが法条遥の『リライト』である、という認識で大丈夫です。そして『リライト』のバッドエンド具合が、まさに作品のキャッチコピーにもなっている「SF史上最悪のパラドックス」と言えるものになっています。

 主人公の美雪は未来人の少年である保彦を助けるために、保彦が持っていたラベンダーの香りがする薬で時間跳躍をします。保彦用に調合された薬であったため、他の人が使用しても完全なかたちで効果を発揮することはなく、五秒間だけ時間跳躍してまた現実の時間に引き戻されます。美雪は咄嗟に十年後に跳躍し、目の前にあったあるアイテムだけを回収して戻ってきて、結果として保彦は助かります。そして十年後、大人になった美雪は十年前の自分がアイテムを回収できるようお膳立てをしましたが、なぜか十年前の自分が現れることなくアイテムはそのまま。美雪が知らないうちに過去が変わってしまっていた! 

 ……という感じのお話であり、「なぜ十年前の自分が現れなかったのか?」「なぜ過去が変わってしまったのか?」といった謎を大人美雪が探る中で、様々な事実が明らかになっていく、というもので、SF作品ですけどミステリー要素が強いストーリーとなっています。

 この作品は、十年前である1992年パートと、十年後である2002年パートを交互に描いていく構成なのですが、この1992年パートが割と叙述トリック的な視点になっているのです。この1992年パートがまさに気味が悪いといいますか、よーく読んでいくと違和感だらけで、初見だと若干読みにくいと感じるかもしれません。ただこの違和感や気味の悪さというのが重要なポイントであり、この『リライト』という作品の魅力の一つだと思っています。再読すると真相を知ってしまっているために気味の悪さは半減しますが、一方で初回では得られなかった読みやすさを得ることができるといった具合です。

 そしてラストで事の真相が明らかになるのですが、この種明かしがまた素晴らしいのです。1992年のとき、主人公である美雪以外のところで一体何があったのか、というところでは、「そこまでやるのか!?」と言いたくなるくらい未来人の保彦が暗躍しており、またこの保彦の裏をかく人物がいたために無茶苦茶なパラドックスが発生した、といった感じで種明かしシーンにおいてもどんでん返しが用意されているのです。こういった隙を生じぬ二段構え的な構成はもうお見事の一言。ラスト40ページはまさに圧巻でした。

 あえてラストについて語るとしたら、この作品は「パラドックス」を描いているだけあって、出来事の整合性という部分では矛盾が生じています。ただその矛盾、「パラドックス」がどういったプロセスで発生したのかという部分では、完璧なまでに整合性がとれているのです。

 まさに「SF史上最悪のパラドックス」という謳い文句は伊達ではなく、個人的にはこの『リライト』という作品は時間SFにおいて傑作だと感じました。

 時間SFの傑作『リライト』ですが、実はこの作品シリーズものの第一作という立ち位置であり、このあとに『リビジョン』『リアクト』『リライブ』と続いていきます。ですが、いち読者として正直な感想を述べると、第一作である『リライト』だけを読んだ方がいいです。

 なんと言いますかね……第一作『リライト』が完璧すぎるくらいに傑作だっただけに、以降の話のガッカリ感が増してしまうのです。風呂敷を広げて時間SFとして難解にするだけ難解にしたにもかかわらず、最後の最後でも風呂敷を畳み切れずスッキリしないといった感じかと。最終巻である『リライブ』の巻末の解説でも、解説者すら理解が追いついていないのか、各巻のあらすじ紹介で原稿を埋めた感が伝わってきてしまうほど。「これは解説なのだろうか?」と思った記憶があります。

 第一作『リライト』がバッドエンドで終わりますけど、別にそれ以降の巻でハッピーエンドになるわけでもないです。

『リライト』だけで終わっておけば……といった気持ちが強いので、気になった方には是非とも『リライト』だけをオススメしたいです。ホント、『リライト』は時間SFとして最高傑作なので。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です