【小説】『ポストコロナのSF』を読みました。SFだからこそ描ける時事ネタとその先

 現在進行形で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス。感染拡大が始まってからもう一年半以上経過していますけど、未だ終息する気配を見せません。ウイルスによって世界が一変。各方面に様々な影響を与え、社会が、そして個人の日常までもを大きく変えてしまったことは、紛れもなく歴史的大事件でもあります。

 だがしかし! 歴史的大事件が起こるということは、すなわちSFジャンルにとって恰好のネタになるということ。だってほら、産業革命から派生させたレトロフューチャー作品も多くありますし、第二次世界大戦の影響を受けたSFも多く生まれました。

 ならばこそ、世界中を巻き込んで混迷を極めている新型コロナウイルスがSFの題材にならないわけがない! と、最初の緊急事態宣言のときに漠然と感じていまして、「いずれコロナSFとか出てくるだろうなー」とちゃっかり期待していました(事実、感染拡大から一年くらい経過した頃にポストコロナを題材にしたSF漫画が登場しましたけど)。

 そしてようやく、本職SF作家たちが描いたポストコロナSFを集めたアンソロジーが発表されました。SFだからこそ描けるコロナが詰まったこの本は、今だからこそ読みたい一冊。

  基本的な書籍情報。

  編者:日本SF作家クラブ

 『ポストコロナのSF』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2021/4/14

  あらすじ

 2021年4月現在、いまだ終わりの見えない新型コロナウイルスのパンデミックにより、人類社会は決定的な変容を迫られた。この先に待ち受けているのは、ワクチンの普及による収束か、あるいはウイルスとの苛酷な共存か。それにより人類の種属意識はどう変わるのか――まさに新型コロナウイルス禍の最中にある19名の作家の想像力が、ポストコロナの世界を描く19篇。日本SF作家クラブ編による、書き下ろしSFアンソロジー。

 収録作品は以下の通り。

小川哲『黄金の書物』

伊野隆之『オネストマスク』

高山羽根子『透明な街のゲーム』

柴田勝家『オンライン福男』

若木未生『熱夏にもわたしたちは』

柞刈湯葉『献身者たち』

林譲治『仮面葬』

菅浩江『砂場』

津久井五月『粘膜の接触について』

立原透耶『書物は歌う』

飛浩隆『空の幽契』

津原泰水『カタル、ハナル、キユ』

藤井太洋『木星風邪(ジョヴィアンフルゥ)』

長谷敏司『愛しのダイアナ』

天沢時生『ドストピア』

吉上亮『後香(レトロネイザル) Retronasal scape』

小川一水『受け継ぐちから』

樋口恭介『愛の夢』

北野勇作『不要不急の断片』

 こういったアンソロジーものであれば、本来ならば一つずつ紹介していきたいのですが……さすがに19作品は多過ぎる。なにより一篇が大体20ページから25ページくらいしかない短編もののため、深く語ってしまうとネタバレになりかねない。そのため読んで個人的に気に入ったものを簡潔に紹介します。

 まずは伊野隆之『オネストマスク』。表情を表示する機能が備わった新マスクに翻弄される社会人の話。honestオネスト=正直 として、隠したい感情でも何でもかんでもマスクに表示させてしまう厄介なマスクといったところ。

 ペンネームだけでなく作者ご本人も戦国武将感ある柴田勝家『オンライン福男』。お正月名物の福男(神社を走るやつ)がコロナの影響でオンライン開催するも、毎年どんどんエスカレートしていきついには銀河レベルのVR空間でのオンライン福男になっていくドタバタSF。

 小説投稿サイト「カクヨム」では『横浜駅SF』でお馴染み柞刈湯葉『献身者たち』。国境なき医師団の視点で語られる感染症の話で、紛争地が舞台ということもありミリタリー感もある。生々しいというかリアリティがあるシリアスもの。

 林譲治『仮面葬』は葬式の代理参列のアルバイトの話で、ディバイスとしての仮面をつけて代わりに参列し、依頼者側はVR感覚でリモート参列気分を味わえる進歩した葬式。その葬式にて一発かましたる話。コロナ描写がしっかりしていてポストコロナSF感マシマシ。

 菅浩江『砂場』は子育てもので親たちの井戸端会議的な話。アフターコロナでも情報の錯綜に右往左往される価値観や偏見を描いた内容は、現実のコロナへの風刺的でもあるかも。ウイルス自体も光学感染までやらかしてきて面白い。

 津久井五月『粘膜の接触について』は全身コンドームみたいな感じでディバイスでもある膜を身に纏うサイバー的な話。膜での接触が快楽コンテンツとなったせいか、繁華街などでの人の多い場所が中毒性の高いパーティーと化している。ちょっと官能的でもありつつSFらしさ満載の一本。

 小川一水『受け継ぐちから』は人類が宇宙進出するようになった時代でも変異によってコロナが続いている話。COVIDの400番台とか600番台が登場する。宇宙航法の裏技を使って感染症の治療を未来に託すも、結局変異し続けているせいで新旧の感染症が入り乱れてカオスに。

 といった作品などが収録されています。説明が難しかったりネタバレしないでの紹介が困難だったりで、すべての作品を紹介することができませんでしたが……。

 収録作品の内容としても、単純なコロナ以後の話だけにとどまらず、長期的に見た(何世紀レベル)コロナSFもあれば、コロナとは別の感染症を描いた話もあり、また執筆陣も若手からベテランまで揃っていて読み応え抜群でした。

 まあこの手のテーマアンソロジーものは若干大喜利感も否めませんけど、でもポストコロナとして面白い作品もあればSFとして興味深い作品もあって、こういったタイムリーなネタを描けるのはSFジャンルとしての魅力の一つかと思います。

 ということで、コロナがいつ終息するのかはわかりませんが(そもそも終息するのだろうか?)、コロナ時代だからこそ描ける小説を現在進行形の今読むのも面白いかと。SFファンでなくてもチェックを。

 ちなみにですが、この記事を書きながらふと気がついたのですけど、このアンソロジー『ポストコロナのSF』の執筆陣が19人で19作品ですけど、これ新型コロナウイルスの名前が「COVID-19」だから19なんですかね? この「19」という数字は狙って企画されたものなのかちょっと気になりました。

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