【小説】『夏へのトンネル、さよならの出口』を読みました。もはやラノベクオリティの域を超えている

 前回は第14回小学館ライトノベル大賞の受賞作品『このぬくもりを君と呼ぶんだ』についての感想を書きましたが、この作品を読んでいるときに「そういえば前回の受賞作品で気になっていたのまだ読んでなかった」ということに気がつき、『このぬくもりを君と呼ぶんだ』を読み終わってから一年遅れで第13回の受賞作品を読み始めました。

 ということで今回は第13回小学館ライトノベル大賞にてガガガ賞と審査員特別賞を同時受賞した作品、『夏へのトンネル、さよならの出口』について。

  基本的な書籍情報。

  著者:八目 迷

 『夏へのトンネル、さよならの出口』

  小学館 ガガガ文庫より出版

  刊行日:2019/7/18

  あらすじ

「ウラシマトンネルって、知ってる?そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうの―」。そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。―このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかも。放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが…。かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。

 ガガガ文庫のページでゲスト審査員から「送る賞と審査員を間違っている」とコメントされているのを見てチェックした作品で、実際にレビューとかを調べてみると確かにラノベじゃない的なことが書かれていて余計に気になりました(そのくせ読むまでに一年かかりましたけど)。

 で、実際に読んでみた率直な感想としては、まあ確かに広義のライトノベルではあるけどラノベにしておくにはもったいない作品、というものを抱きました。それくらいに素晴らしい作品でした。

 あらすじを読む限り、そして本編でも大まかなストーリーラインをまとめてみると、まあーよくある所謂「ひと夏の青春」系であります。昨今のメディアワークス文庫をはじめとするライト文芸や、ガガガ文庫でも過去いくつかのひと夏の青春系の受賞作品があって何冊か拝読したことがあるのですが、この作品もその系統なのかと最初思いました。

 正直に言えばひと夏の青春系作品はもう手垢がつくほどやりつくされた感がある一方、近年でも驚くほどの傑作がまだまだ登場してくる定番ジャンルでもあり、この手のジャンルの底知れなさにただただ唸らされるばかりです。

 で、実際、今回の『夏へのトンネル、さよならの出口』を読んで衝撃を受けました。もう「ほぅー!」と声に出して感嘆するレベルでして、紛うことなき傑作。久々に小説読んで興奮しました。

 ひと夏の青春ものに多くあるような、少年少女の甘酸っぱい関係や、ドキドキワクワクの不思議な大冒険、……などといったものとは離れた作品であります。むしろ登場人物たちの家庭環境や自身の心情、周囲と自分などといったところに年相応の苦みのようなものが含まれており、傾向としてはむしろダウナー系とも言えるかもしれません。

 実際物語の半分くらいはそういった青春ドラマをメインにしたお話になります。あらすじにもある作品の不思議要素「ウラシマトンネル」についても、人物を語るうえでの邪魔にならない程度にしつつも本題として探索や考察が進められていくという具合で、物語を描くにあたっての取捨選択の塩梅が絶妙だと感じました。

 そして実際にウラシマトンネルに突入するのは終盤、物語を起承転結の四分割にした場合だいたい「結」の辺りで本格的なウラシマトンネルパートになるのですが、ここからの展開が一気に加速していく感じは、正直ページを捲る手を止めることができないくらい興奮しながら読みました。

 別にすごく派手な展開というわけではないのですが、しかしながら読み終わっても印象に残るような名場面がいくつも登場するのです。それも、それまでのパートで語られてきた青春ドラマを余すとこなく活かして描き切っているので、読み終えてのカタルシスというか、満たされた読後感を得られるお話でありました。

 前半部分の青春ドラマパートも人物たちの等身大を描いていて青春劇として充分面白いのですが、でも後半の見応えのあるシーン、読み応えのある書き方がまさにクライマックスにふさわしく、読み終わってから「こんなの卑怯だろ!」と素直に思いましたね。こんなの感動するに決まってるじゃないか!

 確かにひと夏系によくありそうな青春劇で、ストーリーとしても決して意外性があるわけでもありませんが、しかしながらこのお話を描くにあたっての文体や描写、ストーリー構成から各シーンの演出、そして何より人物設定などの要素を緻密なバランスに調整しているので、非常に見せ方がうまいと感じました。この作品ストレートにクオリティ高いです。

 なんて言うんですかね……ライトノベルにしては上品すぎる仕上がりといったところ。ライトノベルにしておくにはもったいなく、メディアワークス文庫系のライト文芸でもいけなくはないものの、個人的にはむしろ一般文芸の青春小説として読むのが一番しっくりきた感じですかね。新人賞のゲスト審査員が「送る賞と審査員を間違っている」とコメントしたのがよーくわかりました。

 とりあえずですね、もし自分が新人賞投稿者であったら、才能と実力のレベルがあまりにも違いすぎてほぼ確実に筆を折るくらいですかね。いやこんなの勝てるわけねぇじゃん、って感じ。作家志望じゃなくて本当によかった。多分自分が作家志望であったなら嫉妬のあまり純粋に楽しめなかったと思います。いやー新人賞ってたまにこういう大物が出てくるので面白いですね。本当に素晴らしい受賞作を読ませていただきました。

 ……と言ってしまうとハードルがものすごく上がってしまい、この記事をきっかけに作品を読んでみても「そこまでのものでもない」とか「全然大したことねぇーじゃん」という感想を抱かれそうで怖いのですが、まあ、私個人の感性として傑作だったというだけの話です。あまり真に受けないでください。あくまで「戯言」ですので。

 といった具合で、第13回小学館ライトノベル大賞の受賞作『夏へのトンネル、さよならの出口』を読んだ感想です。またひとつ素晴らしい作品に出合えて嬉しかったです。

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