【小説】『夏の王国で目覚ない』を読みました。これ読んで○○賞云々を信用しないようになった

 前回は季節感を合わせて夏の時期を舞台にした小説を読みました。今回もその流れで夏っぽいものを……と思っていたのですが、こうして記事にする頃にはなんか涼しいというか正直寒いくらいで、気温的には大外れしてしまいましたけどね。

 まあさておき、適当に探した結果、タイトルで既に「夏」が入っている作品を見つけたものですから読むことに。どうやら本格ミステリ大賞とやらの候補作になったようで、期待感マシマシで読んだわけですが……正直、微妙過ぎる!

 そんなこんなで、今回はレビューとか批評とかですらない、ただの愚痴をこぼすだけの回。いやね、書籍を購入した代金分の文句、500ページ近い小説を読むのに費やした時間分の文句くらい言わしてくださいよ。そうでもしないとモヤモヤが解消されないので……。

 今回読んだものは自分との相性が最悪だったため、この記事も結構辛口な感想(というか愚痴)になっています。先に謝っておきますが、もし作品のファンの方がいらっしゃいました申し訳ございません。そのままページを閉じるか戻ってください。

  基本的な書籍情報。

  著者:柴村 仁

 『夏の王国で目覚ない』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2018/8/7

  あらすじ

 再婚の父に新しい母と弟。私だけが家族になりきれてない…高校生の美咲は寂しさを埋めるため正体不明の作家・三島加深の小説に熱中していた。ある日、加深関連のサイトで“ジョーカー”という人物に「ミステリツアーに参加して謎を解けば加深の未発表作を贈る」と誘われる。家を出て三日間のツアーに飛び込む美咲だが―参加者の消失、死体、さらに…これは少女が経験した、二度と来ないひと夏のクローズドサークル。

 さて、夏を舞台にした本格ミステリー作品(?)ですが、大まかな作品概要はこのようなもの。ある目的のためとあるミステリーツアーに参加した一行は、はじめのうちは設定にのっとりミステリーイベントをこなしていたものの、へました参加者がガチの被害者になったことでさながらデスゲーム的な様相を見せはじめ、次々とイベントを消化しつつ勝ち残ろうともがく内容。

 まずですね、このミステリーツアーが茶番過ぎる。ミステリーツアーといえば、旅行先で謎解きイベントが発生して参加者はさながらミステリー作品の探偵役のように謎を推理する感じのツアー企画ですね。ただこの小説で企画されたミステリーツアーは設定がガチガチに決められており、参加者はその役を演じるかたちでイベントをこなしていくことになります。さながらミステリーツアー風の劇中劇のようである。

 劇中劇なんだから茶番であるのは当たり前なのかもしれない。ただこの小説においては劇中劇の都合、ひいては作品そのもののシナリオの都合に人物が動かされ過ぎている。普通に冷静になって状況を判断すれば最適な行動をとれますが、この小説の登場人物はなぜか最適な行動をせずわざわざ遠回りで面倒な選択をしていき、合理性のかけらもない展開がひたすら続いていくのです。ミステリーツアーに参加する大きな動機はあるものの、細かい動作などの小さな動機にリアリティがない感じです。

 ましては感情的で声がでかい参加者がヒステリックさながらに喚き散らし余計な面倒事を増やしていく。さらに視点人物の主人公も状況に対して考察して推理するのではなく、ただ流されて感情的に共感させようとする描写ばかり語るので、劇中劇としてもそうですしなにより物語そのものがなかなか進まず、非常に退屈な展開が続いていくのです。「なにこれページ数を稼いでいるの?」と疑いたくなるレベルでスローテンポでした。それで文庫500ページの超長編とかふざけているのか? もっとコンパクトに話をまとめられただろ。読んでいて退屈過ぎてイライラした。

 あとこのミステリーツアーの茶番さが一番酷かったのが、企画した所謂犯人役の動機。犯人役もそれらしいちゃんとした動機があって、目的を果たすために行動した結果がこの作中の出来事なのですが、それにしてもあまりにも回りくどい。わざわざミステリーツアーを企画して事件を起こさなくても、もっと真っ当なやり方で目的を果たせただろうに。ミステリー部分の面倒くさささと犯人役の動機のバランスが釣り合っていないから、読んでるこちら側としては、ただ単に「ミステリーツアーで発生した事件の謎解き」というシチュエーションをやりたかっただけだろと思わずにはいられない。シチュエーションが先行しているせいかフィクションとしてはあまりにもお粗末と言わざるを得ないです。「きっとミステリーが好きなんだろうなー」ということはひしひしと伝わるのですが、それが悪い方向で発揮されている具合。

 というかクライマックスでの推理パートも酷い。推理パートになってからの後出しの情報があまりにも多くフェアじゃないのは百歩譲っていいとして、それにしても真相があまりにもご都合的で納得できねぇ。ミステリーとして複雑にしたのはいいものの、それらを整合性をもってまとめきることに失敗した印象を受けました。加えて先程も述べましたが、主人公をはじめ登場人物たちは考察をすることなく状況への共感をさせようとする心理描写ばかりなので、余計に後出し感が増しているのです。

 なんでしょう、数学でたとえるならば、問題があって解答も合っているのですが、でも途中式が書かれていないので解答の説得力が証明できず正解にできねぇ、みたいな感じ。

 途中も退屈過ぎて酷かったですが、「でもまあ伏線を回収して真相が明らかになれば、終わり良ければ総て良し的にいいラストになるのでは?」という思いでなんとか最後まで読みましたけど、そんな期待は見事に打ち砕されました。

 総じて、あまりにも茶番過ぎるミステリー、というのが読んだ一番の感想でした。

 とはいえミステリーを抜きにして単純にフィクション、物語としてこの作品をみればまだ何とか……ならねぇな!

 主人公が全く考察しない役立たずで、結局推理パートも他人任せのくせに最後の美味しいところだけ持っていくクズなキャラクター性は「うわぁ……なんなのコイツ……」という具合でドン引きしました。主人公も複雑な生活をしていてこのミステリーツアーもある種現実逃避的な側面もあり、主人公としての物語への動機は完璧で、結末にて主人公の生活も改善されるのですが、しかし「その程度で解決する問題だったの?」と拍子抜けするくらいの肩透かしな結末。主人公本人に悪意があるわけではないのですが、客観的にみると無自覚な無能過ぎて、そもそもこの主人公いなくても物語が成立するのではないかというレベルでいらない子だと感じました。

 なんというか、この主人公、「わたし可哀想! 共感して!」というメンヘラ拗らせた面倒くせぇ女らしさがありましたね。

 というか全体的にこの小説は感情的であった。別の言い方で共感脳のミステリー。

 別に差別的な意味とかではなく、そもそも女性は共感脳で男性が解決脳という通説はあくまで傾向の話でしかなく、男女で脳の構造が違うとはいえ科学的根拠もなく後天的な影響の方が強いと言われています。そのため「女性がー」「男性がー」という言い方はしませんが、小説の途中で謎に対して考察するわけでもなく陥った状況に対して共感を誘う描き方、推理パートでの整合性のとれていないご都合的な真相、そしてとって付けたかのような結末など、物語として「解決」するよりは「共感」をメインにして書かれたかのような印象を受けました。

 別に恋愛小説とかヒューマンドラマとかみたいな作品であれば共感を目的にした書き方もいいでしょう。しかしミステリーという論理的に謎を解き明かしていくジャンルでは共感よりも解決を目的にするべきだと個人的には思うのですけどね。そのあたりが「ミステリー作品としてどうなのよ?」と感じた部分です。

 とはいえこの小説は本格ミステリ大賞の候補作にもなった作品ですから、本格ミステリーとして何かしら評価されている点があるのではと思い、その「本格ミステリ大賞」なるものを調べてみました。

 Wikipediaを見る限りですと、2001年から始まった推理小説の賞で、候補作を読んだ本格ミステリ作家クラブ会員の投票で受賞作が決まるそうです。なんだかSFで言うところの星雲賞みたいですね。

 そして今回読んだ小説が候補作となった回の結果を見てみると、投票総数が56に対し、この小説の投票数は2。……たったの2です。もちろん候補作の中で断トツの最下位です。

 もちろん他の候補作が素晴らしくてそちらに投票が集中した可能性もありますけど、この投票数を見る限り、これ本格ミステリーとして評価されてないのではなかろうか?

 どういった基準で候補作が選ばれるのかはわかりませんが、最終選考にてミステリーに精通しているであろうクラブ会員でも二人しか投票してないということは、候補になっただけでむしろ作品としては評価に値しなかったのではなかろうか? 「本格ミステリ大賞候補作!」って名乗らない方がいいのではないか?

 ひとまず今回この小説を読んだことで、「〇〇賞候補作」というセールスコピーは信用しないことにしました。

 最低でも「〇〇賞受賞」と書かれているものは、少なからずその賞で評価されたものであるので、読み手側の好み次第ではあるものの一定の信頼はあるのではないかと思うようになりました。

 とりあえずこれで書籍の購入代金分、読んだ時間分の文句は言えたのでスッキリしました。お目汚し失礼しました。

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