【小説】『なめらかな世界と、その敵』を読みました。ホントSF愛が満載な作品集ですね

 電子書籍を利用する前までは、単行本を避ける傾向がありました。まあ単に値段が高いというのもあるのですが、一番の理由としてはかさばるため。基本仕事の行き帰りの電車の中で読書しているので、単行本は文庫と違って鞄の中で占める割合が大きくなりがち。さらに紙の塊の大きさが増すことにより鞄が重たくなる、というデメリットもあって、単行本は避けていました。

 そう考えると電子書籍って単行本のデメリットを見事に打ち消してくれるんですよね。スマホで読めばそもそも紙の本を持ち歩かなくていいし、データとして何冊何十冊とおさめることができるので、重さから解放されるわけです。値段にしても、電子書籍サービスでは頻繁にセールやポイント還元とかを開催しているため、購入へのハードルも下がりますし、やっぱ電子書籍って便利だなと感じる今日この頃です。

 と、電子書籍を使い始めてちょっとずつ単行本も読むようになったのですが、一方で「昔気になっていたけど単行本だったのでスルーしていた作品が文庫化してお手軽に!」ということもしばしばありまして、今回読んだものも「いつか電子書籍で単行本を読もう」と思っていたところに文庫化の告知を知ったものですから、せっかくなので文庫版を手にしてみました。……単行本版ではないのは、ホラ、値段がお手頃なので。

  書籍情報

  著者:伴名 練

 『なめらかな世界と、その敵』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2022/4/20

  あらすじ

 いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。著者渾身の1万字あとがきを併録した決定版

 以前ここで単体の短編小説『なめらかな世界と、その敵』の感想記事を投稿しましたが、今回読んだ書籍『なめらかな世界と、その敵』は、他の短編小説をまとめた作品集となっています。

 そのため、短編小説『なめらかな世界と、その敵』についての感想は過去の記事をご覧ください。

2020年3月17日公開

 今回は、『なめらかな世界と、その敵』以外の収録作品についての感想を書いていきます。

 まず掲載二作品目の『ゼロ年代の臨界点』は、架空のSF史を描いたある種の歴史改変SFともいえる。明治時代を舞台に女学生を中心としたSFブームが拡大していき大きな文学へと変わっていく様が描かれており、さながら近代文学の一片を体感するかのような内容。明治時代当時の文学ネタをはじめ、SFとしてのネタも満載で、作者の文学的SF的な造詣の深さと作家としての想像力がこれでもかと詰め込まれた良作。コンセプトとしては架空SF史ですけど、オチが完全なSFになっているのも面白かったですね。

 続く『美亜羽へ贈る拳銃』は伊藤計劃作品『ハーモニー』の登場人物である御冷ミァハをモチーフにしたヒロインが登場する作品。作品のテーマ性としても『ハーモニー』への意識が強い内容ではありますが、二次創作でも何でもなくあくまで単体として成立している作品。というより『ハーモニー』を意識している以外は普通にオリジナル作品である。『ハーモニー』を読んだことがなくても楽しめるが、読んでいるとより面白さが増すくらいにネタが詰め込まれている。

 四作品目『ホーリーアイアンメイデン』も歴史改変SFものである。昭和初期くらいの時代設定で、抱きしめた相手の心を清く正してしまう能力を持った姉を妹の視点で描いた書簡形式の小説。というか完全に姉妹百合として読んでしまうくらいに、百合として美味しい内容。書簡体小説でいうと同作者の短編小説『彼岸花』と似ている部分がある。『彼岸花』は『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』に収録されている大正ロマン作品。その他にも作者が組んだアンソロジーにも書簡形式の宇宙SFを収録しているなど、多分こういう書簡体小説が好きなんだろうなーと思った作品でした。

 五作品目『シンギュラリティ・ソヴィエト』は米ソの冷戦に人工知能を組み込んだ内容で、これも歴史改変SFであるかも。人工知能の演算資源に人民の脳の半分を借りていたり、レーニンのクローンがアンドロイドのような労働力として活用されたり、その他米ソに関わりのあるものがSF的に改変されていたりと、なかなかにイカれた内容。今のご時世的なこともあるかもしれませんが、自分としては不謹慎過ぎて面白かったです。こういうの嫌いじゃないです。あとなぜか一時期SF界で話題になったソ連百合作品を想起させるものがあり、もしかしたら何かしらの影響があったのかもしれない。

 そして最後となる『ひかりより速く、ゆるやかに』。これは傑作でした。新幹線が低速化現象に見舞われる内容で、主人公は修学旅行を欠席したためにその新幹線に乗らなかった少年。低速化に巻き込まれた同級生との関係性や主人公の置かれた立場など、収録作品の中では一番ドラマ性に富んだものでしたね。なんでしょう、タイムトラベル系の時間SFを違う視点で描いたような感じ。また高速移動体が低速化する現象の発生による社会や世界の影響を細かく考察しているのもポイントで、ある意味では社会シミュレーション系のSFとしても解釈することができますね。あと何気にファーストコンタクトものの要素も含まれている。

 という感じの収録作品ですが、全体で見てみると、やはり作者さんのSFへの愛に溢れた作品ばかりでした。この作者さんによるSFアンソロジーがいくつも出ていますが、その多くがこれまで未収録だった短編を集めたものであり、いい意味でのSFマニアっぷりを発揮されています。

 そうした数多くの、しかもマニアックな作品を網羅している作者さんだけあって、執筆される作品もSF作品に対するリスペクトやオマージュが含まれているのが、ある種の作風と化しているのかもしれませんね。

 今回の短編集『なめらかな世界と、その敵』においても、SFマニアだからこそ描ける作品だらけだったような気がします。そういう意味では、読む側もSFの小ネタを知っていれば知っているほど作品を面白く解釈できるという楽しみ方ができるのだと思います。まあSFネタに詳しくなくても普通に面白い作品ばかりですので、SF初心者の方でも楽しめるかと。

 そんなこんなで、短編集『なめらかな世界と、その敵』でした。

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