【小説】短編『なめらかな世界と、その敵』を読みました。あーそういうことね。完全に理解した←わかってない

 前回、そして以前に『2010年代SF傑作選』の一巻と二巻について語りました。そしてその編者の一人である作家伴名練の作品にも触れてみようと考えていたところに、早川書房のnoteにて伴名練短編集『なめらかな世界と、その敵』の表題作が期間限定無料公開されるというツイッターのツイートを拝見しましたので、せっかくの機会なので読んでみました。

 早川書房のnote

 Hayakawa Books & Magazines(β)

https://www.hayakawabooks.com/

 伴名練作品『なめらかな世界と、その敵』無料公開

「嫌な現実」を自在に乗り換えられたら? SF小説『なめらかな世界と、その敵』

https://www.hayakawabooks.com/n/n145d5b97a611

 短編集『なめらかな世界と、その敵』書籍情報

  筆者:伴名 練

 『なめらかな世界と、その敵』

  早川書房より出版

  刊行日:2019/8/20

  あらすじ

 2010年代、世界で最もSFを愛した作家。塩澤快浩(SFマガジン編集長) いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作のほか、脳科学を題材として伊藤計劃『ハーモニー』にトリビュートを捧げる「美亜羽へ贈る拳銃」、ソ連とアメリカの超高度人工知能がせめぎあう改変歴史ドラマ「シンギュラリティ・ソヴィエト」、未曾有の災害に巻き込まれた新幹線の乗客たちをめぐる書き下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」など、卓抜した筆致と想像力で綴られる全6篇。SFへの限りない憧憬が生んだ奇跡の才能、初の傑作集が満を持して登場 。

 今回無料公開されたのは、短編集『なめらかな世界と、その敵』に収録されている表題作であり、二、三万字程度の短編小説となっています。書籍のあらすじにある通り、「いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作」というのが重要なポイントになります。……というかこの前提部分を理解していないと冒頭で重たい一撃を食らうことになります。

 冒頭、一行目を引用しますが、

〝うだるような暑さで目を覚まして、カーテンを開くと、窓から雪景色を見た。〟

 この時点で「ん?」となります。

 この作品は並行世界を題材にしたSFとなりますが、その世界の切り替わりが一文の中で生じているのです。

 普通、パラレルワールドを扱った作品であれば、そこまで頻繁に世界が切り替わるものではないですし、いくつもの世界を描く作品であっても、その切り替わりポイントははっきりと描写されるものだと思います。しかしこの『なめらかな世界と、その敵』という作品では少し様子が違いまして、唐突に、呼吸をするかのように、頻繁に世界が切り替わっていくお話になります。

 ここがですね……なかなかの混乱要素でもあるんですよ。実際に自分も読み始めたときに「? ? !?」って感じでした。季節とか目まぐるしく変わりますし、登場人物もどういったかたちで存在しているのか把握するのが難しく、「何だこれ?」感がしました。

 ただお話そのものは難しいものではなく、「ある日転入生が来て、その子によって事態が動き出す――」的な青春ストーリーになっていまして、中盤あたりはさながらミステリー的に謎を追求していきます。例の転入生には異質な雰囲気があるが、その異質さはその子の過去に体験した事件が関わっているといった具合。その謎や事件が物語の根幹となっていくのです。

 また、ミステリー的な中盤を経たラストでは、爽やかな青春ストーリーを描きつつSF的描写でとても引き込まれる圧巻さがあります。冷静に読むと「どういうこと?」となってしまいますが、しかし作品の世界観や設定をこれまでの流れで掴んでいると、そのシーンの圧倒さがダイレクトに伝わってくるといった感じ。このシーンに関しては多分どんなに感想を語っても伝わらないかと思いますが、あえて感想を述べるとしたら「宇宙を見た」といったところでしょうか。なんか、正直よくわからないんですけど、とにかくすごいものを読んでしまった感というのが、読後に押し寄せてくるといった感じです。そしてオチとしても、設定を生かしつつ青春ストーリーとしての青臭い爽やかさがあるといった具合。これ、この感想これで伝わるかしら……。

 並行世界、パラレルワールドものの物語は別に珍しくもない、ある意味ありふれた題材かと思いますが、それを踏まえて全く新しい何かに触れた感覚があります。いやなんか矛盾しているようですが、「ありふれているけど斬新」なのです。

 なので、すごく楽しめた作品なのですが、じゃあその面白さを解説してみろよと言われるとできそうにありません。おそらくこの作品を読んだ自分を客観的にみると、まさにポプテピピックのポプ子のように「あーそういうことね。完全に理解した←わかってない」って感じになっているのかもしれません。

 SFや、小説をはじめとする物語そのものに多く触れている方にとっては、この独特な感覚に至れるかもしれませんが、逆にあまりSFに触れない、そもそも小説も全然読まない、そんなある種のリアリストな人が読むと「?」ってなるかもしれませんね。そういう意味であれば、SFとして、そして物語としてとてもハードルが高い作品といえるのかもしれません。

 なにはともあれ、ここまで力強い短編作品は珍しいかと思いますので、一読する価値はあります。万人にオススメはできませんが、しかし独自のワールドに浸れる貴重な作品でした。

 あと、これ読んで短編集『なめらかな世界と、その敵』が気になったのですけど、これ単行本なんですよね……。文庫と違って値が張るのでなかなか手が出しづらいです……。

 ちなみにですけど、自分、伴名練作品の中では『彼岸花』という短編が好きです。大正浪漫百合SFなんですけど、そちらもとても素晴らしい作品ですので興味がありましたらどうぞ。アンソロジー『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』に収録されています。

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