【小説】『三日間の幸福』を紹介。年をとる度に再読した方がいいかもしれないお話

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2018年10月28日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054887366733

我が家の秘蔵本棚から一冊をピックアップ。『三日間の幸福』というタイトルの小説です。一年くらい前に読んだ小説です。

 基本的な書籍情報。

  著者:三秋 縋

 『三日間の幸福』

  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版

  刊行日:2013/12/25

  あらすじ

 どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の“査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるが、何をやっても裏目に出る。空回りし続ける俺を醒めた目で見つめる、「監視員」のミヤギ。彼女の為に生きることこそが一番の幸せなのだと気付く頃には、俺の寿命は二か月を切っていた。

 冒頭部分を簡潔にまとめると、腐れ大学生が金に困って残りの人生を一年につき一万円で売り払う話です。

 まあ一万円なんて、好条件のバイトなら一日で稼げる金額ですし、そこまで条件よくないバイトでも二日か三日で稼げる金額ですからね。それを一年を代償に一万円を得るわけですから、どう考えても割に合いません。ただ主人公は自身の寿命を投げ売りするほど精神的に追い詰められていまして、この小説も半分以上がネガティブな雰囲気で語られています。

 そんな鬱々した内容ですが、後半に向けて徐々に前向きになっていき、ラストは恋愛的なオチで終わりますので、終始暗いストーリーというわけではありません。作品を通して「人生の価値とは?」と問いかけられつつも、最終的にはハッピーエンドなので、心に響きつつも感動作品として読み終えることができます。

 まあ結構な人気作品でして、レビューサイトとかでも結構な件数の感想が投稿されていますので、今更ここで内容についての感想を語っても仕様もないでしょう。私が書いても似たような感想はすでにどこかで公開されていそうですしね。それに有名な作品ですので、もうすでに読んだカクヨムユーザーもいらっしゃるでしょう。改めて感想を書かなくてもいいのではとも思います。

 というわけで今回は、少し違った視点で『三日間の幸福』を語ります。

 この小説を読み始めたとき、最初に抱いた印象というのが、強い既視感でした。「これどっかで読んだことある!」という具合に。

 それで作品のこと、そして作者の三秋 縋という作家さんについて調べたところ、この方、元々2ちゃんねるでSSを書いていた人なのです。

 そうです! この『三日間の幸福』という小説は、かつて2chで投稿されたSSでして、そのSSをリアルタイムで読んでいたのです。だから既視感があったのです。ちなみに2chのSSでのタイトルは『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』。

 2chのSSなら、どこかのまとめサイトの記事になっているのではと思い検索してみると、案の定原作となったSSのまとめが出てきました。一応ヒットしたまとめサイトを貼っておきます。

 ゴールデンタイムズ

http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51779527.html

 VIPPER速報

http://vippers.jp/archives/7104680.html

 【2ch】ニュー速クオリティ

http://news4vip.livedoor.biz/archives/52189080.html

 私はそんなにSSを真剣に読んだりせず、パッと冒頭だけを読んでおしまいというパターンが多いのですが、このSSに関しては最後まで読んでしまったケースです。この作品が投稿されたのが2013年で、私が書籍小説版を読んだのが去年ですから、実に4年ぶりに再読したことになります。

 もちろん2chのSSから書籍の長編小説となっていますから、当然大幅な加筆修正がされています。ただ実際に書籍版を読んだあとにまとめサイトでSS版を読んでみると、場面や構成で細かいところが違っていたり、肉付きが増してエピソードの補強がされていたりと、確かに違う点はあるのですが、あらすじとしては全く同じです。SS版でも書籍版でも、それほどオチに差はありません。

 ただ話の流れは同じはずなのですが、しかし読後の感想は当時と去年とでは全く異なるものになりました。

 なんと言いますか……SS版のときは、こう「これでやっと幸せになれるな!」みたいな、主人公を祝福するような感覚になったのですが、書籍版を読み終えたときは「これまでよく頑張った! ご苦労様!」みたいな、主人公を労うような感覚になったのです。

 つまり、当時SS版を読んだときはその後の未来についての感動であり、4年後に読んだ書籍版ではそれまでの過去についての感動だったのです。

 それで、どうしてここまで違った印象になるのだろうと考えたところ、この4年の間に私の感性が変わってしまった、ということに行きつきました。

 確かに4年前は今の自分よりも若いです。ですが実際の年齢的にその4年の間に大きな変化があったという要素もあると思います。仕事も生活環境もステップアップする前は、若さ故の将来に抱く曖昧な展望みたいなものがあったと思います。しかしステップアップにより生活が激変し、年齢を重ねてより現実を直視するにつれて、若いときに抱いていた将来の展望みたいなものが薄らいでしまったのかもしれません。

 そうやって当時から去年までの4年間を振り返ってみると、確かに全然違う自分に変化していたことに気付かされます。

 日々生活していると、その日々の変化というものを自覚することは難しいですが、しかし小さな変化も積み重ねれば大きな変化となります。

 また今の自分が過去の自分を思い返してみても、それは今の自分の視点で過去を見つめ直しているに過ぎないと思います。過去の出来事を思い出せても、その当時に思っていた思想や感性などはなかなか思い返せないかと。どうしても今の自分のフィルターが噛んでしまいます。

 ただ物語に触れて感じたことは、余程しょうもない内容でない限り忘れないと思います。面白かった作品は、その後も面白かったという感想が記憶に残ります。

 そういった意味では、物語という媒体を使うことで、過去の自分と今の自分との感性の違いをはっきりわかるかたちで認識できたのは、自分としては大きな意味があったのではと思いました。

 というか「人生の価値」というテーマで描かれた『三日間の幸福』という小説でこういう体験ができたのが大きかったかと思います。自分なりに人生を積み重ねてから、過去の自分が人生についてどう感じたのかを知る、みたいな。この作品だからこそ意味があったかと。

 これ多分、5年後や10年後に読み返したら、また違った感想を抱くと思いますね。だからこそ、感性を刺激する作品って、年齢を重ねる度に触れて長期的に体感するという楽しみがあるのだと思います。私にとってその作品の一つが、この『三日間の幸福』だったのです。

 まあ今回これを書くにあたってパラパラっと読み返してみましたけど、さすがに1年ではそこまで感性は変わってなかったです。もっと時間をおいてから再読したい。

 そんなわけで、リアルタイムでSS版を読み、時間を経て事前情報なしに書籍版を読んでよかったと実感しました。多分SS版に出会わず普通に書籍版を読んでいたなら、普通の感想しか抱かなかったかと。

 ……というより、そのパターンがまさに三秋縋デビュー作の『スターティング・オーヴァー』なんですけどね。これも『十年巻き戻って、十歳からやり直した感想』というタイトルでSS投稿されていたみたいです。こちらのSS版は知らず、書籍版から読んだので、「終始鬱々した話だなー」という普通の感想しかありませんでしたが。これもおそらく、『三日間の幸福』と同様時間を経て読み返したらまた違った印象を受けたかもしれませんね。

 多分これから長い間我が家の秘蔵本棚に居座るであろう小説。何かの人生の節目に読み返したいと思える『三日間の幸福』という作品の紹介(これ紹介になっているのか?)でした。

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