【小説】『九度目の十八歳を迎えた君と』を読みました。いい作品なんですけど、なんか腑に落ちねぇ……

 ちょっと前に『失恋の準備をお願いします』を読んでこちらで記事にしました。読んだ媒体が電子書籍であることもあり、読後にオススメ作品とかが表示されるのですが、大抵の場合は著者の他の作品であったり、あとは「コレ読んだ人はこれも読んでます!」みたいなノリのレコメンドであったりとか。

 で、なんとなく見ていたところ、この作者さんは創元社の創元推理文庫でも作品を発表していまして、「そういえば創元推理文庫って読んだことないなー」とふと思ったものですから、いい機会というかなんとなくのノリというか流れで読んでみることに。……レコメンドのいいカモになっている気がしますが、これがIT時代の弊害か……(たぶん違う)。

  基本的な書籍情報。

  著者:浅倉 秋成

 『九度目の十八歳を迎えた君と』

  東京創元社 創元推理文庫より出版

  刊行日:2020/11/19

  あらすじ

 いつもより遅めの通勤途中、僕は駅のホームで偶然、高校の同級生・二和美咲の姿を目撃した。他人の空似ではなく、十八歳のままの彼女を―。誰も不思議に感じないようだが、彼女に恋していた僕だけが違和感を拭えない。彼女が十八歳に留まる原因は最初の高校三年生の日日にある?僕は友人や恩師を訪ね、調べ始めた。注目の俊英が贈る、ファンタスティックな追憶のミステリ。

 簡単にまとめますと、三十目前のサラリーマンが駅のホームで片想いだった同級生を見かける、という話。これだけならばよくある再会なのですが、しかし相手は高校生のまま。留年しているとかそういうことではなく、彼女だけ年齢が止まってしまっているということで、さてどういうことでしょうか? という感じのミステリー。

 ミステリーはミステリーで間違いないのですが、物語のきっかけとなる部分が割と少し不思議(言葉通りの意味)であり、ある種のファンタジー風味のミステリーといったところ。まああの、タイトルそのまんまなんですけどね。パッと見のイメージだけであればまさにライト文芸のような感じ。なんでしょう、メディアワークス文庫あたりから出ていてもおかしくない感覚ですね。

 前に読んだ『失恋の準備をお願いします』でもそうなのですが、この作者さんはどうやら伏線に定評があるようで、確かに今回の『九度目の十八歳を迎えた君と』でも綺麗に伏線回収していき、全体としても整った構成になっている印象です。

 とはいえ『失恋の準備をお願いします』みたいな喜劇要素は皆無で、どちらかといえば少し不思議な謎をきっかけに過去ともう一度向き合うといった追憶的なストーリーであり、そういう意味であれば主人公は成人のおっさんですけど内容的には青春ドラマの要素が強いという作品でした。

 シリアスで手堅い内容ですが、一方で伏線としても物語としても『失恋の準備をお願いします』のようなインパクトはなく、比べてみた場合『九度目の十八歳を迎えた君と』の方はおとなしさがあるという感じですかね。まあ作品そのもののコンセプトが違うので作風の違いがあるのは当たり前なのですがね。

 ただ個人的に気になったのが、やっぱりヒロインの年齢が止まっているという要素ですかね。この年齢が止まっているという設定に何かしらのからくりがあるわけでもないので、現実からの延長線上のにあるようなSFではないといったところ。しかし現実の出来事としては突拍子のない現象のため、最早ただのファンタジーとしか言いようがありません。そしてきっかけの部分がファンタジーなので、いくら真相が明らかになったとしても「そういうものだから」というゴリ押し感が悪目立ちするといった具合。

 別にファンタジー系ミステリー作品を否定しているわけではなく、たとえファンタジー系ミステリーでも素晴らしい作品も多くあります。ただなんか、最後まで読んでもなんとなく腑に落ちない感覚が残るんですよね。その、過去の出来事の真相や、それによる登場人物ひいてはヒロインの心情は納得できるのですけど、ではそれが「年齢が止まる」という現象に繋がるのかがわからない。いや年齢止められるなら自分も止めたいよ。

 まあこういった部分は所詮「フィクションだから」で片付くものなのですけど、でもパズルみたいにすべての辻褄があっていく感覚を楽しむミステリーにおいて(少なくとも自分はそう思っている)、「そういうものだから」というピースが混じっていると、やっぱり納得した読後感は得られないんですよね。なんかこう、年齢が止まることに関しての前提が欲しかったな、という感想でした。

 あと真相についてですが、割と胸糞悪いもの。少なくとも自分はそう感じました。なんというんでしょう、「全部自業自得じゃねぇか」みたいな感覚。主人公のヘタレ鈍感具合もそうですしヒロインの人のよさもそうですし、その他の人物のキャラクター性が悪い意味で噛み合った結果の真相なので、確かにミステリーとしての真相でもありますし物語としても印象深いエピソードではあるのですが、個人的な感情としての感覚として「これは同情できねぇぞ」みたいな気持ちがありました。

 この話を読んで思い出したことがあるのですが、昔読んだ記事で車椅子バスケットボール選手の特集というもの。その選手が下半身不随で車椅子生活となったきっかけが、元々バスケットボール選手として将来有望な男子高校生だったのですが、席に座ろうとした際にクラスメイトの女子がふざけて椅子を引いたことによりその選手が転倒、打ちどころが悪かったらしく後遺症で足が動かなくなってしまいました、というもの。記事の中で何やら美談みたいに書かれていましたけど(ライターがそう改竄したのかもしれませんが)、「いやその女子極悪人じゃねぇか」と感じたことを思い出しましたね。その才能ある男子生徒の人生を無茶苦茶にしたこともそうですし、バスケットボール界でも優秀な選手を失ったわけですから、第三者の視点からいうとどうあがいても美談にはならないだろと突っ込みたかったです。

 で、なぜこの車椅子バスケットボール選手の記事を思い出したのかというと、この『九度目の十八歳を迎えた君と』での真相が車椅子バスケットボール選手の話と同レベルの胸糞だったからです。

 なんか作中の当人たちは受け入れて、つらかったけど前向きに生きていきましょう! みたいな綺麗なかたちに収めていますけど、いやいや第三者(読み手)からすると綺麗なかたちに収めようとしているこいつらスゲェなと思わずにいられない。それこそ自業自得や同情できないというものですかね。

 いやこれただ単に自分が善人ではなく狭量な人間だからこそ抱いた感想なのかもしれない。別にシリアスな話が嫌いなわけではなくむしろ大好物なのですけど、歪なかたちで(少なくとも自分はそう感じた)綺麗にまとめるのは好きではない。作中ではほぼほぼ名前しか出てきてない張本人を探し出して市中引き回しくらいしてもいいのではとちょっと思いましたね。

 なんか酷評みたいな感じになってしまいましたが、いやあのいい作品ですよ。定評通り伏線回収は素晴らしいですし、話としてもメリハリがあって、文章もかなりリーダビリティがよく、作品としてのクオリティは高いかと思います。あと作中のテーマである年齢や過去といったものへの考察や思想は大変興味深く、とても面白い見解だと感じました。まあ単純に話そのものと読み手との相性の問題であり、作品そのものが酷いということでは決してないです。いい作品でした。ただし自分とは相性よくなかった。ただそれだけです。

 という感じで、『九度目の十八歳を迎えた君と』でした。

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