【小説】『このぬくもりを君と呼ぶんだ』を読みました。面倒くせぇなコイツら! さっさと付き合えよ!

 去年の11月から今年の年始にかけてpixivで募集された第2回百合文芸小説コンテストでは、コミック百合姫をはじめとして早川書房のSFマガジン、そしてなぜか小学館ガガガ文庫などが選考を務めました。……早川書房はまだわかります。去年あたりから百合SFをゴリ押ししていますので。でも、ガガガ文庫? これはもしかしてガガガ文庫で百合のワンチャンあるのでは!? と思ったところで、今年の小学館ライトノベル大賞において早速百合SFが受賞しました。さすがガガガ文庫。行動が早い。

 ということで今回は第14回小学館ライトノベル大賞にて優秀賞を受賞した作品『このぬくもりを君と呼ぶんだ』について。

  基本的な書籍情報。

  著者:悠木 りん

 『このぬくもりを君と呼ぶんだ』

  小学館 ガガガ文庫より出版

  刊行日:2020/7/17

  あらすじ

 偽物の空、白々しい人工太陽。全てがフェイクの地下都市で、リアルな『何か』を探している少女レニーが出会ったのは、サボリ魔で不良少女のトーカ。レニーは彼女に特別な『何か』を感じ、一緒の時間を過ごすようになる。ある日、レニーの前に空から赤く燃える小さな球体が。それを『太陽の欠片』と名付けたレニーは正体を調べる。一方でトーカにも変化が…。ずっと続くと思っていた二人の日常は音を立てて崩れ始め―。第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞。ガールミーツガールから動き出す青春SFストーリー!

 環境が悪化したために地上の街を模した地下都市を築き、人類絶滅の危機を脱した未来を描いたSF作品になります。とはいえSF的に何か大きく物語が動いていくわけでもなく、あくまでメインのお話は二人の少女の関係性を描いた青春ドラマといったところ。もちろんSFとしての世界観の設定はしっかり練られていますが、あくまでSF要素は舞台装置にとどまっている印象です。

 ですがこの地下都市などの舞台装置的なSF設定だからこそ、物語の趣旨にわかりやすく繋げることができていて、なんのストレスもなく作品のコンセプトを捉えることができるといったところ。

 偽物の街に暮らす自分たちには何か本物といえるものがあるのだろうか、と主人公のレニーは疑問を抱きながら日常を過ごしているのですが、これがそのまま作品のテーマとなる部分でもあり、また登場人物が行動して物語を動かしていく原動力にもなっていますので、うまいこと設定を生かしたお話だったと感じました。

 またSF要素そしてのフェイク/リアルだけではなく、たとえば集団においける同調圧力や差別だったり、自分や相手が抱いている本音と建前であったりと、人間関係からくるものからも人物設定に組み込んでいますので、SF以上にドラマとしても「偽物と本物」というテーマが深く突き刺してくる作品でした。……まあ作中でうるさいくらいにフェイクだリアルだと連呼していますので、否応なしにテーマを意識させられるのですけどね。でもこのあたりもレニーのキャラクター性を生かしているのでいいと思いますけどね(レニーのキャラクター性についてはこのあと)。

 そんなレニーちゃんが出会うのがサボり魔のトーカなのですが、レニーからすると何やらリアルに一番近そうな存在と感じているらしく、トーカの描写もどことなく異質、ミステリアスな雰囲気を纏っている印象を受けます。本人は陽気でコミカルな振る舞いをしていますが、その部分もどこか訳あり気味(実際訳ありなのですが)であり、そこがまた謎めいて見えるといったところでしょうか。

 そんな印象を抱かせる序盤はレニー視点の一人称で語られているのですが、お話もおおよそ三分の一が過ぎたころ、第二章からはトーカ視点の一人称で語られていくことになり、以降レニーとトーカのパートを交互に描いていく流れになります。

 で、面白いのがレニーが抱いていたトーカの印象と、実際にトーカパートでの自身の性格、これら二つが全然違うところ。最初はレニー視点だったからこそ、視点人物であるレニーの基準でシーンが描写されていてその流れでトーカの異質性が語られていましたが、トーカパートになるとむしろトーカは異質でもなんでもなくて割と普通な年頃の女の子を思わせる描写になっています。そしてトーカパートを経てレニーパートに戻ると、「うわッ! レニーの方がアカン奴じゃん……」という具合でレニーの異質性が目立ってくるのです。

 あのですね……レニーちゃんですけどね……だいぶ拗らせちゃっている女の子なんですよ。第一章とかだとレニーが視点人物だったからこそある種年相応のお悩みを抱えた普通の女の子という印象を抱くのですが、話が進むにつれてメンヘラ具合やヤンデレ具合に磨きがかかってきちゃって、完全にヤバい奴であることが露見してくるのです。なんかちょっと序盤でレニーの主張に納得しちゃった自分が恥ずかしいレベル。

 レニーは真面目な人物であるのですが、この真面目加減がちょっと暴走している具合。生真面目だからこそ頑固になってしまう部分もあり、頑固だからこそ視野が狭くなりがちで物事も歪んだ捉え方をしてしまうのであって、それらがループしていった結果中二病的にヤバい方向へ拗らせていってしまった感じです。正直ですね、読んでいる途中からレニーの印象が「面倒くせぇなこの女!」といった感じに変わっていきました。

 この拗らせた面倒くせぇ女レニーちゃんと、年相応に悩み苦しむ若者トーカ。この二人の噛み合っているようで全然噛み合っていなくてそれ故にすれ違っていって結局ぶつかり合って分かり合うというビックリするくらい青臭い青春模様は、傍から見ていると「面倒くせぇ奴らだな! さっさと付き合えよ!」とツッコミたくてウズウズしました。

 でもこの分かり合えないですれ違っていく要素は、いってしまえば人が抱えている本音と建前などにも直結してくるものであり、まさに作品のテーマでもある「偽物と本物」をメインの青春ドラマに落とし込んでいるのです。このあたりはうまいこと考えたなーと感じ、さすが受賞作だけあるなという感想を抱きました。

 といった感じで『このぬくもりを君と呼ぶんだ』について語ってきましたけど、百合小説としてとてもいい作品だと感じました。

 あとイラストを描いているのが『やがて君になる』でお馴染みの漫画家の仲谷 鳰先生。百合ジャンルでご活躍されているだけあって、表紙のイラストがまあー尊い。巻末のおまけ漫画も素晴らしいのですが、このおまけ漫画を読んで、この作品は是非とも漫画で読んでみたいと感じました。コミカライズを期待!

 ということで、今回は第14回小学館ライトノベル大賞を受賞した百合青春SF『このぬくもりを君と呼ぶんだ』でした。

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