【小説】『君の話』を読みました。三秋作品の最高傑作であり、そして新しい三秋作品だ

 自分の好きな作家の一人が三秋縋先生ですが、一つずっと気になっていた作品がありまして、ようやく読みました。……いつもの積読癖ではありません。この作品は文庫ではなく単行本のため、なかなか手が出しづらかっただけなのですがね。ほら、単行本って文庫本と比べると値が貼りますし、大きくて鞄の中でかさばるし、重たくて持ち歩きにくいし……。実はずっと文庫化してくれることを期待して待っていたのですが、結局待ちきれなくなって今回読んだ次第です。

  基本的な書籍情報。

  著者:三秋 縋

 『君の話』

  早川書房より出版

  刊行日:2018/7/19

  あらすじ

 二十歳の夏、僕は一度も出会ったことのない女の子と再会した。架空の青春時代、架空の夏、架空の幼馴染。夏凪灯花は記憶改変技術によって僕の脳に植えつけられた“義憶”の中だけの存在であり、実在しない人物のはずだった。「君は、色んなことを忘れてるんだよ」と彼女は寂しげに笑う。「でもね、それは多分、忘れる必要があったからなの」これは恋の話だ。その恋は、出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた。

 三秋縋作品といえば、主人公が救いようもない腐れ大学生で鬱々とネガティブ自論を語っていて、少し不思議要素を絡めた恋愛物語を展開するものの結局ハッピーエンドとは言い難い落としどころに持っていく、という、決して明るい話ではないものの独特の哲学が見え隠れしてそこに魅力を感じる、といった具合かと思います。

 今回読んだ『君の話』は三秋作品の最新作でありますが、読んだ印象としては「三秋縋の最高傑作」と同時に「三秋縋の新たな可能性を垣間見た」といったものでした。

『君の話』の基本となるストーリーは、いつものネガティブ系な恋愛ものです。しかしこの作品は、今までの作品には見られなかった歴としたサイエンス・フィクションとなっているのです。

 もちろんこれまでの三秋作品はSF的なものをベースに描かれていました。たとえば商業デビュー作となる『スターティング・オーヴァー』では、主人公は気付けば十年前にタイムリープしていたものの改変願望がないため一周目と全く同じ行動をするものの、どう行動しても一周目と同じにならずどんどんズレていってしまう、というもの。代表作である『三日間の幸福』も寿命を買い取る謎の商売があるというもの。それらは一見すこしふしぎのように思えますが、しかしながらサイエンス・フィクションとして設定を詰めて描かれているものではなく、むしろファンタジー的な少し不思議として描かれていました。

 一方、前作にあたる『恋する寄生虫』では、同じくネガティブ系恋愛ものではあるのですが、しかし作中にて寄生虫の生態を詳しく説明するシーンがあり、そして寄生虫ネタから発展した独自の設定は、紛れもなくサイエンス・フィクションであったと記憶しております。これまでの「ファンタジー系少し不思議」から、『恋する寄生虫』で「SF系すこしふしぎ」に作風が変化した印象でした。

 そして最新作『君の話』では、新型アルツハイマー病の治療研究から派生して記憶改変技術が生まれた近未来を描いています。記憶改変技術によって改変された記憶は「義憶」と呼ばれ、あたかも義肢のように人の欠けた部分を補うものとして描写されています。記憶改変というアイディアはSFらしいSFネタと言えますが、この作品に登場する記憶改変技術にはこれまでの三秋作品にも見受けられる独特の哲学と合わさることでオリジナリティを増し、サイエンス・フィクションとしてとても面白い見解が得られる設定に仕上がっていました。そしてこれらのSF設定に一切の無駄がなく、作品内で全てを使い切る設定の構成力はSF作品としてお見事でした。

 と、SFとして素晴らしいだけではなく、ストーリー構成の面もとてもよかったです。

 主人公は記憶改変のクリニックの不手際により、「夏凪灯花」という実在しない幼馴染の記憶を植え付けられます。主人公自身は「夏凪灯花」という存在は偽物と認識し、それ故偽りの記憶に苛まれるのですが、しかしそんな主人公の目の前に夏凪灯花と思われる女性が現れる。「存在しない幼馴染に再会する」という、物語の構造そのものがミステリー仕立てとなっており、目の前に現れた幼馴染は一体何者なのか? いやむしろ幼馴染の存在は本物で自分の記憶がいつの間にか改変されていたのでは? といった謎が謎を呼ぶストーリー展開となっているのです。「本物」と「偽物」、「現実」と「虚構」。これらの相反する要素がSF設定によってぶつかり合っているので、物語として非常に読み応えのある内容になっていました。

 また後半には視点が切り替わるギミックも用意されています。これはそのまま視点人物が変わるということでもありますが、本質的なところで物語そのものの視点、印象が反転するといった二層構造となっています。作中で描写のアイテムとしてレコードプレーヤーが登場するのですが、そのレコードのA面B面になぞらえて、ここからB面だ、という表現は正直痺れました。

 こうしたミステリー風味であり加えてギミックも用意されている点により、読者を力強く引き付ける物語としての魅力に圧倒されましたね。これまではネガティブな作風によって読者に読ませる、という印象があったのですが、最新作に来て物語の意外性で読ませるという要素も加わり、小説としてのクオリティは今までの作品の中で一番なのではと感じました。まさに三秋作品の最高傑作と呼ぶにふさわしい作品でした。

 今回『君の話』を読んで、これまでの「SF風な作品を書く作家」という印象から大きく変わり、「本格的なサイエンス・フィクションを書く作家」となりました。

 SF作家としてのこれからの可能性を感じたということもありますが、純粋に「三秋縋」という作家の進化を目の当たりにした、というのが、『君の話』を読んだ感想でした。

 この『君の話』は間違いなく三秋作品の中において一つの集大成であり、一つの可能性でもあるという、重要な転換点となる作品ではないでしょうか。これから三秋縋という作家さんがどのような作品を発表するのか、今後のご活躍に注目したいですね。

 という感じで、『君の話』の話でした。

 ……そういえば『恋する寄生虫』が実写映画化するそうですけど、どうなんでしょうね。なんかクレジットに「原作」ではなく「原案」と表記されていたので、一般的な実写化よりもより原作改変される予感がして、作品のファンとしてはすごく不安になるのですが……。実写化……うーむ……どうなることやら。

 というか三秋作品をアニメ化してくれ。

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