【小説】『きみは雪をみることができない』を読みました。作風は全然違うけど共通している部分もあった

 先月こちらで記事にした『スター・シェイカー』ですが、この作者さんは『スター・シェイカー』で第9回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞しただけではなく、第28回電撃大賞にてメディアワークス文庫賞も受賞し、ダブル受賞により期待の新人として売り出されているのを見かけます。

 そんなこんなで、『スター・シェイカー』はもうすでに読み感想記事を書きましたので、今回はもう一つの作品、メディアワークス文庫賞を受賞した作品を読んでみることにしました。

  書籍情報

  著者:人間 六度

 『きみは雪をみることができない』

  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版

  刊行日:2022/2/25

  あらすじ

 ある夏の夜、文学部一年の埋夏樹は、芸術学部に通う岩戸優紀と出会い恋に落ちる。いくつもの夜を共にする二人。だが彼女は「きみには幸せになってほしい。早くかわいい彼女ができるといいなぁ」と言い残し彼の前から姿を消す。もう一度会いたくて何とかして優紀の実家を訪れるが、そこで彼女が「冬眠する病」に冒されていることを知り――。現代版「眠り姫」が投げかける、人と違うことによる生き難さと、大切な人に会えない切なさ。冬を無くした彼女の秘密と恋の奇跡を描く感動作。

 端的に言えば、所謂難病ものの恋愛小説といったところですかね。ただよくある難病ものと違うのは、ヒロインは不治の病で亡くなったりしない点。ヒロイン死んじゃう系ではないので、そういった悲しい恋物語でお涙ちょうだいする作品ではないです。どちらかと言えばすれ違い勘違いでモヤモヤするバカップルを眺めている感覚の、ビターだけど甘ったるい恋愛小説ですかね。

 とはいえこの作者さんの作品で最初に読んだのが『スター・シェイカー』だったので、作風が大きく異なっている点については正直驚きました。『スター・シェイカー』はSFの想像力の極致みたいな作品で、テレポートが普及した近未来で異能力バトルしたりロードムービーしたり、最終的には宇宙規模のハードSFになっていくものの、基本ボーイミーツガールな作品でした。

 その『スター・シェイカー』と比べると、今回の『きみは雪をみることができない』は話のスケールがかなり小ぶりになっている。まあ現代を舞台にした恋愛小説で宇宙規模のSFをやられても読む側としては困惑するので、これはこれでいいのですけどね(とはいえラストで急にSFになりますけど)。

 一方で『スター・シェイカー』にあったストーリー構成の瑕疵や、ガタガタして読みにくい文体は多少ましになっている。なんでしょう、話のスケールが小ぶりになった影響か、構成も文体も落ち着いたためでしょうか? 

 とはいえ全体的に読みにくい文章であることには変わりない。『スター・シェイカー』もそうですけど、今回の『きみは雪をみることができない』も、余計な表現が多過ぎて文章のテンポが悪くなってしまっているのが気になりました。雰囲気を演出したいのはわかるのですけど、それにしたって「文字数稼ぎ?」と感じてしまうシーンもあって、ちょっと惜しいなと思いました。

 文体についても『スター・シェイカー』や『きみは雪をみることができない』で共通している要素があるのですが(そもそも同じ作者なので当たり前と言えば当たり前)、それ以外の要素についても共通している部分がある。

 一つは主人公の造形。『スター・シェイカー』の主人公である勇虎は、いい解釈をすると物語の中で大きく成長していく人物ですが、一方で新人賞の選評のほか自分でも感じたことですけど、主人公の人格そのものが変わったと感じられるくらいに様変わりしてしまう点。主人公のキャラクター性がぶれてしまっているとも言えますね。

 そして『きみは雪をみることができない』では、主人公の人物設定が不安定で、最初は控え目な印象だったのが突然衝動のまま感情的に行動したり、かと思えば優柔不断でウジウジしたりして、傍から見ると情緒不安定になってしまっている。

 加えてヒロインも身勝手なキャラクター性で、散々周囲(とくに主人公)を振り回す様は、不治の病を患っているとか関係なく人としてクソ過ぎる点はいただけない。それでいて「わたし可哀想でしょ!」みたいな性格をしているものだから人物の行動と性格が一致していない。

 そしてそんなヒロインに主人公が惹かれる描写に説得力がない。主人公がヒロインのどこに惹かれてご執心なのかが薄いので恋愛小説として読み解いたとしても薄っぺらさが目立ってしまう。

 あと肝心の冬眠の設定が曖昧であるため、終止ご都合的でありリアリティに欠ける。とくに最後はあまりにも唐突過ぎて「なんじゃそりゃ?」と思わず呟いてしまったくらい。別にSFではないのでそこまで設定のリアリティは求めていませんけど、もう少しなんとかならなかったのかとツッコミたい。

 このあたりが二つ目の特徴かと。『スター・シェイカー』においてもメインギミックのSFとしての設定の甘さがあって、この『きみは雪をみることができない』でも恋愛作品としての根幹の部分の詰めの甘さ。土台が柔らかいせいでその上に積み重ねているものが不安定になってしまっているのは、正直もったいないと感じました。

 ここまでなんだか酷評みたいな感想になってしまっていますが、いい点、とくに両作品に共通したいいところをあげるとすると、題材の着眼点は素晴らしいと思います。

『スター・シェイカー』の凝縮されとんでもないスケールで描くSFもそうですけど、『きみは雪をみることができない』においても「冬眠するヒロイン」というアイディアは秀逸だと感じましたね。

 せっかく素晴らしい想像力があるので、設定面や構成文体での瑕疵でマイナスになってしまうのは非常に残念でありますね。このあたりのフォローができればもっといい作品になれたと個人的には思っています。

 なんでしょう、確かに想像力や着眼点の面では期待の大型新人ですけど、では次回作を読んでみたいかと言われるとそうでもない感じ。むしろ、たとえば三年後とか五年後とかにふと最新作を読んでみるとあまりの傑作で絶賛しそう、という感じがしています。そういう意味であれば、これからプロの作家としてのキャリアを積んで化けていくのを期待したい感じでもありますね。

 と、いち読者でしかない自分がかなり偉そうな批評を書いてしまいましたけど、一応『きみは雪をみることができない』の感想(『スター・シェイカー』との比較)でした。

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