【小説】『希望が死んだ夜に』を読みました。これはなかなか、人生ハードモード過ぎますね

 小説などの書籍を購入する際、表紙に惹かれて買ってしまうことがあるかと思います。俗に言う表紙買いです。自分もたまにやりますが、表紙買いした小説のヒット率がそれなりに高くて、表紙買いとは言えどもなかなか侮れないと感じています。

 そんなわけで今回読んだ小説も、つまりは表紙買いして期待以上にハマった作品ということになります。タイトルは『希望が死んだ夜に』です。

 ちなみにどういう表紙かというと、夏服セーラー服姿の女の子がのけ反ってへそチラしている実写の表紙です。……これだけ聞くと卑猥な感じに捉えられるかもしれませんが、作品の内容自体はかなり硬派なものになっています。というか表紙自体も別に変な意味もなく普通の表紙です。ただ単に変態の自覚がある自分が勝手にフェチズムを感じただけの話。いや女の子のへそチラ表紙とか、買うでしょ。

  基本的な書籍情報。

  著者:天祢 涼

 『希望が死んだ夜に』

  文藝春秋 文春文庫より出版

  刊行日:2019/10/9

  あらすじ

 神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか?二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって―。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。

 この作品の最大の特徴は、取り扱った題材、そのテーマ性にあるかと思います。

 この作品に登場する、同級生を殺害したとされる少女の冬野ネガは、所謂貧困家庭に生まれて育っています。ただ一口に貧困と言っても、ネガの場合は周囲の大人たちに恵まれなかった故に、不幸がまた新たな不幸を呼び寄せ混沌としていく、そんな貧困スパイラルに陥ってしまっているといったもの。

 中学校の担任教師も認知の歪みからの無理解で的外れな指導に、生活保護を受給しようとしても出し渋りにあう制度的なグレーゾーンによる板挟み。それらの存在は確かにハードルとして立ちはだかるものではありますが、最大のハードルが母親の存在。

 ネガの母親は裕福な家庭に生まれるも虐待を受けて育ち、やっとの思いで打ち明けた学校の先生とまさかの駆け落ち学生結婚。教員を失職するも転職してうまく生活できたのもつかの間、業績不振で失業した夫にDVされ母親はネガを連れて夜逃げ。母親は過去の虐待や夫からのDVにより精神的に不安定で仕事をしてもパニック発作を起こしてまともに稼ぐことができない。生活保護を申請しようとしてもパニックによりうまく申請できず、また職員も生活保護の制度故に申請を阻むというダブルパンチで断念。しまいには中学生のネガに年齢を偽って深夜の居酒屋で働かせるという、いやいくら貧困とはいえ不幸要素盛りすぎで人生ハードモード過ぎるわ! といったところ。

 子供の貧困、子供の不幸は親の責任。というのは以前から考えており、実際今でも自分自身はそう思っています。子供を育てられないのであれば子供を産むべきではない、というと少々言葉が強くなってしまうかと思いますし、そもそも人生何があるかわからないので子供ができてから転落することだってあるので、一概にそう言い切ることができないのも事実ではあります。

 でも実際そういった境遇になったとしてもやりようはいくらでもあるかと思います。たとえば働けなくて生活がままならないというならば、一旦子供を施設に預けて病院に通うなり就職活動するなりして生活基盤を整えてから晴れて子供を迎える、というのも一つの方法ではあります。一時とはいえ子供を手放すというのは親と子の双方に感情的な不幸はあるかもしれません。しかしながら長期的な幸せと短期的な不幸を考えれば選択肢としては充分あり得るものだと思います。

 この作品に登場する冬野ネガの母親も、手遅れになる前にネガを施設に預けて、精神疾患を治療して安定した仕事を見つけるべきでした。しかしそういった判断ができないほど精神的に病んでしまっている。正常な判断ができないからこそ最善の選択ができなくなってしまい、その影響をなんの責任もない子供にも負わせてしまう。そういった境遇におかれるネガは客観的にみても不憫だといわざるを得ないでしょう。

 しかしこういった話は何もフィクションだけのものではないかと。おかれている状況は違えど、似たような境遇は現実として多くあるかと思います。それこそここ数十年景気が停滞している日本で、どんどん格差社会が浮き彫りになっていく現代では、こうした貧困は決してあり得ない話ではないはずです。

 そういう観点からみても、この『希望が死んだ夜に』という小説は現代社会が抱える問題をストレートに描くことにより、シリアスな社会派作品としての存在感を高めていると言えるでしょう。

 こういった「子供の貧困」を下地にした『希望が死んだ夜に』は、貧困家庭の少女である冬野ネガはなぜ同級生である春日井のぞみを殺害したのか、その真相に主人公の男性刑事が迫るという刑事ミステリー作品になります。

 被害者の春日井のぞみは、周囲から優等生として認識されていて、所謂クラスの人気者、学校のマドンナ、お嬢様といった人物像。貧しいネガとは何もかも正反対な少女ですが、ではなぜネガはのぞみを殺害したのか?

 ネガは犯行は認めるものの動機については黙秘を貫いており、主人公を含めた警察は殺人事件として捜査していくことになる。貧しいネガがお嬢様ののぞみに嫉妬したのではとか、逆にのぞみが貧富の差でネガを虐めていたのではとか、動機についていくつも考えられるものの、しかし捜査が進めば進むほどネガの動機だけがどんどん不透明になっていく。そして二転三転していく末に二人の少女の意外な関係が明らかになっていき、事件の見方そのものが反転していく。

 こういったストーリー構成は読めば読むほど深みにはまっていき、ミステリー作品として強烈な読み応えを生み出しているといったもの。伏線もどんでん返しも秀逸で、本当に素晴らしいミステリー作品でしたね。

 あとこれは個人的にですが、青春作品や百合作品が好みな自分としては、この作品は紛れもなく青春百合小説だと勝手に思いました。

 被害者である春日井のぞみにはとある秘密があり、その秘密による冬野ネガとの意外な関係が、なかなかに尊い。

 この作品は主人公の男性刑事による捜査パートと並行して、冬野ネガ視点での過去回想が挟まっているという構成なのですが、このネガ視点が百合としておいしい。

 ネガも当初はお嬢様なのぞみの気遣いをありがた迷惑として邪険にする一方、のぞみへの印象自体はある種のアイドルと接するファンのような、自分とは住む世界が違う存在として認識していました。しかしネガパートの中盤辺りからのぞみの秘密が明らかになり、それをきっかけにネガとのぞみは親密な関係になっていく。まずここが百合的に大きなポイント。

 そしてそれ以降ネガとのぞみの関係性がどんどん深まっていき、ついには事件当時に至るわけですが、もうそのころになると百合的にあまりにも尊過ぎて語彙力がなくなるレベルで悶絶するシーンなわけなのですよ。

 この二人の少女、被疑者×被害者のカップリングは、そのシリアス具合も合わさって破壊力抜群でしたね。

 とはいえ、自分自身は「女の子が二人いればそれだけで百合」と主張するようなクソ百合豚なので、あまり真に受けないでいただきたい。この作品においてもネガとのぞみの関係は狭義のガールズラブではありませんが、しかしその強い友愛からは確かな百合を感じたのも事実でした。

 という感じで小説『希望が死んだ夜に』についての感想でしたが、この作品、社会派作品としてもミステリーとしても傑作なのですが、自分的には青春小説として、さらには百合小説として自分の好みに直撃したものでもあります。

 最初の、購入したきっかけが表紙の夏服セーラー服少女のへそチラという不純なものでしたけど、いやいいものと出会えてホント満足です。

 と、今回は表紙買いも侮れないという話でした。

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