【小説】『鹿乃江さんの左手』を読みました。ファンタジーかと思いきや意外とリアルだった

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年12月1日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054892485089

 pixivでは「第2回百合文芸小説コンテスト」なるものが開催されているようです。選考にはコミック百合姫が参加。……まあ百合姫はわかりますよ。百合の専門誌ですから。しかし他の選考参加レーベルが、SFマガジンとガガガ文庫。…………?

 ……SFマガジンってつまり早川書房ですけど、今年から急に謎の百合推しし始めましたよね? というか第1回の百合文芸小説コンテスト応募作を密かに早川書房が拾い上げしていましたけど、第2回は堂々と吟味する気なのですね。早川書房は本格的に百合ジャンルを開拓するみたいです。

 ……まあSFマガジンはわからなくもないです。ですが、ガガガ文庫? ガガガで百合!? いえ最近ガガガ文庫全然読んでないですけど、まさかガガガ文庫が参加するとは思わなかった。ガガガ文庫で百合が今後くるのかも? 

 と、別に応募するつもりもなく(書くネタがないだけ)、ただ冷やかしとして応募作をザっと眺めていましたら、無性に百合小説が読みたくなったので、評判のいい百合作品を検索したところ出てきたのが『鹿乃江さんの左手』でした。で、読みました。

  基本的な書籍情報。

  著者:青谷真未

 『鹿乃江さんの左手』

  ポプラ社 ポプラ文庫より出版

  刊行日:2013/10/4

  あらすじ

 ある女子校で起こる“不思議で残酷な出来事”を描く3つの連作短編集。「この学校には魔女が棲んでいて、どんな願いごとも一つだけ叶えてくれる」という噂。絵空事と思っていた生徒の前に、ある日魔女を名乗る女性が現れて……(「からくさ萌ゆる」)。選考委員全員が絶賛した才能。第2回ポプラ社小説新人賞・特別賞受賞作。

『からくさ萌ゆる』『闇に散る』『薄墨桜』の三篇からなる作品。

『からくさ萌ゆる』が実質の表題作といえるでしょう。というのも、タイトルにある「鹿乃江さん」はこの話しか登場しません。左手に関するエピソードもここだけです。「……それでいいのかよ!」とツッコミたくなりましたが、まあそれは別にいいです。全編通して素晴らしい百合でしたので、この際鹿乃江さん云々はどうでもいいです。というか後半を読んでいるときはもう既に鹿乃江さんの存在感がなくなっていました(他二編も良作だったからという意味で)。

 各作品を簡単に紹介しますと、

『からくさ萌ゆる』はクラスに馴染めない新入生が主人公。絵を描くのが得意ですがコミュニケーション能力は全くなく、所謂オタクや陰キャに分類されるタイプの人物です。そんな主人公がいつの間にか気になっていた人物が弓道部の美少女鹿乃江さん。図書室で見つけた秘密の百合ノートをきっかけに、衝動的に絵を描くと、気がついたら鹿乃江さんをモデルにしていた。そこに学校の「魔女」が現れ、主人公の周りで怪奇現象が起き始めて……ついでに鹿乃江さんとの関係も変化していく話。

『闇に散る』はとある事情によりバレエをやめてしまった女の子が主人公。あるとき学園祭のクラスの出し物を何にするかホームルームで議論していると、クラスの意見がバレエに固まってしまう。主人公は当然、素人ができるものではないとして猛反発するも、クラスメイトたちは反発に対する反抗に火がついてしまい、より一層やる気になってしまう。とくにマイペースで空気が読めないクラスメイトがグイグイ主人公に絡んできて、主人公も主人公で最初は嫌々していたのに段々と練習に協力し始めるという典型的なツンデレを発揮しながら、二人の仲が深まっていくことに。練習に付き合っていると、主人公はやめたはずのバレエへの情熱が蒸し返され、ブチギレ寸前不機嫌に。そうしてふと遭遇した「魔女」から願い事をかなえてやると提案されるものの、その方法は歪んだものだった、という話。

『薄墨桜』はかつて学園の生徒だった養護教諭が主人公。保健室前に掲示されている、誰も読んではいないだろう手書きの保険だよりを熱心に読む女子生徒から告白される。主人公は教員として大人の対応をするものの、その女子生徒から、かつて自身も同級生に想いを抱き最終的に酷い裏切られ方をしたのを想起させられる。その経験が尾を引いて現在の無味乾燥な日常となっていることに気がついたところで「魔女」登場。女子生徒から自分に関する記憶を消してほしいと願ってしまうという話。結構重たい内容(とくに主人公の過去)。

 魔女の由来が明かされるエピソードだが、真実が『氷菓』のオチと通ずるものがあって、ダジャレというか、低クオリティの言葉遊び感がある。それでいいんかい⁉

 といった具合で、すべての作品においてキーとなるのが「魔女」の存在。こうして各作品を雑なあらすじにまとめてみると、若干ホラーっぽくもあるファンシーな青春小説のように思えるかもしれません。ですが実際に読んでみると、そこまでファンタジーしていないのです。

 というのも、魔女が叶える願い事は一見ファンタジー感ある不思議な現象ですが、実はそこには現実的なトリックが巧妙に隠されており、やろうと思えば実際に再現できてしまう方法でもあるのです(無理やり感は否めませんが……)。

 よってファンタジーというよりは、どちらかといえばミステリーに分類されるかと思います。主人公たちは魔女が引き起こしたとされる不思議現象に困惑翻弄されますが、話のラストで「実はこんな裏がありましたー」といったある種バラエティ番組的なドッキリ種明かしによって真実が判明し、またそこから誤解や認識が解消されて相手との関係が解決される、というオチに繋がっていくのです。

 なので全体を通してファンタジー要素はありません。あえてファンタジー要素をあげるとすれば、結局「魔女」の正体は何だったのか解決されなかったところですかね。いえ『薄墨桜』で魔女の由来について明かされるシーンはあるのですが、実際のところ噂が誇張され続けた結果校内の都市伝説となってしまっただけでしかなく、現に主人公たちの前に現れた「魔女」と思われる人物は誰だったのか明かされていないのです。魔女伝説が、元ネタが判明している街談巷説でしかないので、現実的に考えれば「魔女」という存在はいるわけないのです。

 ただこの「魔女」の存在も、作中の描写から「ただ単に神出鬼没な女子生徒」という解釈もできなくはないので、そうするとすべてのファンタジー要素をなくすことができてしまえるのです。解釈次第でファンタジー小説から現代青春劇まで見方が変化する作品だったように思えます。

 このあたりの「魔女」関連ギミックがとても秀逸であり、純粋で尊い青春百合小説だけにとどまらない、ミステリーらしさからくる読み応えがあったように思えました。これがなかなか、うまいことやっていて面白かったですね。思うに、理屈っぽい人はミステリーとして深読みすることもできますし、感受性豊かな方は本来の不思議青春小説として楽しめるかと思いますね。読む人の性格によって作品の姿が変わるかも? しれません。

 といった感じで、青春百合作品『鹿乃江さんの左手』でした。百合としては、前二編は広義的なライト百合で、最後の作品は本格的なGL(ガールズラブ)といったところ。とても尊く、よかったです。

 ちなみに前置きで触れた「第2回百合文芸小説コンテスト」ですが、SFマガジンが選考に参加している影響なのかSF作品で溢れていますけど、気のせいだと思うことにしました。SFの人たちが百合でワンチャン狙い過ぎではなかろうか……。

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