【小説】『異セカイ系』を読みました。こういう全力で皮肉っている作品嫌いじゃないッス

 今年になってから完全電子書籍で読書するようになりました。利用しているのはAmazonのキンドルではなく、KADOKAWA系列が運営しているBOOK☆WALKERです。いえこれといって特別な理由とかはないんですけど、BOOK☆WALKERってカクヨムと連携していてWEB小説をそのまま電子書籍化できて自分も利用しているものですから、その流れで読む方のサービスもBOOK☆WALKERにしているってだけです。

 そんなこんなでBOOK☆WALKERですけど、結構頻繁にセールを開催していまして、出版社別やレーベル別で半額セールとかコイン(サイト内ポイント)大幅還元とかやってます。

 そして確か2月の上旬あたりに講談社の書籍が半額セールとなっていまして、自分としては講談社のライト文芸枠である講談社タイガを中心に見て回って何冊かまとめ買いしました。で、今回はそのまとめ買いした中の一冊、『異セカイ系』がなかなかに強烈だったので感想記事を書くことに。

  基本的な書籍情報。

  著者:名倉 編

 『異セカイ系』

  講談社 講談社タイガより出版

  刊行日:2018/8/22

  あらすじ

 小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや!あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……これ、ミステリなん?

 この作品は第58回メフィスト賞を受賞した作品。あのメフィスト賞です。数々の人気作家を輩出した唯一無二の個性派の新人賞です。そんなメフィスト賞の受賞作品であるこの『異セカイ系』は、まさにメフィスト賞に相応しいのではと感じてしまうほどの超個性的な内容でした。

 あらすじを読む限りですと所謂WEB小説系の異世界ファンタジーを題材にしたメタフィクション作品という印象でして、確かに前半とかはまさに小説の世界に入って満喫する内容なのですが、次第に「作者」と「キャラクター」や創作全般についてのアンチテーゼ的な攻め方をするという、まさになろう系異世界ファンタジー版メタフィクションといったもの。

 そして作品としても物語としても後半になるにつれて化けてくる。ある種のミステリー的な展開になったかと思えばまさかのラブコメ的展開になり、さらにはSFらしいスペキュレイティブな考察を交えて大きな広がりを見せてきます。

 もうこのあたりは「どういうことやねん!」とツッコミたくなるほどの無茶苦茶な拡大っぷりで、読んでいる最中はなんとなく納得しかけるのですが冷静になって考えてみると「つまりどういうこと?」と思ってしまうほどの斜め上を行くラスト。前半部分でも充分メタフィクションなのですが、後半ではそのメタフィクションが大爆発するといったところで、こういう発想力をもって構成された作品は一読の価値があるほどの秀逸さを感じましたね。

 そうそう、ある種のSF的なメタフィクションでもあるこの『異セカイ系』ですが、この作者さんってゲンロン出身の方らしいんですよね。ゲンロンとはゲンロンカフェにてSF評論家大森望を講師に毎回様々なSF作家を招いて行われるSF創作講座のことです。開始してからもう5年(?)くらいになるかと思います。初年度の講座をまとめたものが書籍になっていまして、SF書きはもちろんジャンル外の創作をされている方にも創作指南書として興味深い内容になっているものです。

 話がちょっと逸れてしまいましたが、確かに後半以降のある種のSF的アプローチは、さすがゲンロン出身者といったところ。加えメフィスト賞受賞作に相応しいぶっ飛んだエンターテインメントもあって、まさにこの『異セカイ系』は個性的過ぎる個性派作品といったところでしょうか。強烈なメタフィクションです。

 とはいえ、この『異セカイ系』はいい面ばかりではありません。

 まず言いたいのは、文章が非常に読みにくい。

 この作品の語り部は名倉編(作者と同名)というWEB小説作家なのですが、この主人公が関西弁でしかも全文口語調で書かれているのです。「い」抜き言葉や「ら」抜き言葉は当たり前で、さらには「てにをは」すら省いているのです。しかもWEB小説作家という属性も相まってオタク的なノリの言葉遣い。

 あの……普通の小説作品に慣れ親しんだ身からすると、文章の癖が強すぎてかなり読みづらいです。とくに冒頭の何ページかを読んだときは、あまりにも文章の偏差値が低く、正直「キツイなコレ……」と感じてしまうほど。もちろん小説の作風にあわせた演出としての文体ではあるのですが、これがなかなか文体に慣れるまで時間がかかりましたね。

 あと作中で小説投稿サイトが登場するのですが、このあたりの描写も違和感だらけ。お話の展開としてユーザーによるランキング操作や、また複数アカウントやアカウントの共有といったシーンがあるのですが、それ、普通に運営対応でBANされる違反なんですけど……。

 もちろん作中に登場する小説投稿サイトは架空のものであり、現実にある小説家になろうやカクヨムとは違いランキング操作もアカウント関連も許容される規約になっている投稿サイトと言ってしまえばそれまでです。

 しかし実際の小説投稿サイトでランキング操作も複数アカウントやアカウント共有が認められているサイトって、自分が知る限り存在しないんですけど。というかそれらを認めてしまうと投稿サイトとして機能しなくなるほどの重大なものだと思うので、必ず何かしらの規約で禁止されているはずです。

 でもそれらの小説投稿サイトとしてのリアリティを作中に持ち込むと、ストーリー展開が成立しなくなり物語として破綻してしまうほど、作品として重要な要素になってしまっているのです。

 この作者さん小説投稿サイトを利用したことがないのだろうか? と思ってしまうくらい杜撰な描写で、自分としては「リアリティねぇなー」と思いました。

 それと、これはあくまで個人的なものなのですけど、自分は作者と作品を完全に切り分けるタイプでして、自分もかつては小説を書いていましたが自作にそこまで愛着はありません。

 なのでたとえばあらすじで「小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや!」と紹介されても「だから何?」って感覚なんですよね。いや展開上必要なら殺すでしょ。

 作者が作品に抱く愛着というものが自分にとってよくわからないものなので、この作品の主人公が作中作品の登場人物を助けようとして苦悩するシーンってのがいまいち理解できないんですよね。いやだって作者と作品で別で、作品としてアプトプットした段階で作者の意思や思想から独立したのだから、自身の手元から離れたものになんでそんなに苦しんでるの? という感じ。

 このあたりの感覚が腑に落ちないので、作品の文体も合わさってより一層作品のノリについていけなかったという感想でした。

 ちなみにこれはこの作品とは全然関係ない話ですけど、作品のテーマや登場人物の台詞に対して「これは作者さんからのメッセージ!」「これは作者の主張だ!」って言う人、個人的に嫌いです。いや作者は作品にあわせて創作しているのですから、作中の主張はあくまで作品を描くにあたって必要となった主張であり、イコールで作者の主張じゃないでしょ、と言いたい。あと学生時代の現代文のテストとかで「このときの作者の気持ちを答えよ」みたいな問題も大っ嫌い。いや作者関係ねぇだろ、と常々思っていました。作品は作者の分身じゃねえんだぞ!

 読者の立場としては「興味があるのはあくまで作品であって作者ではない」ですし、創作活動をしたことがある立場としても「自分(作者)ではなく作品に興味を持ってほしい」という、作者と作品が完全分離したスタンスであるため、この『異セカイ系』での主人公の行動原理に理解を示すことができないのだと思います。

 と、いろいろと脱線気味になってしまいましたが、この『異セカイ系』という作品は、後半部分の予想外の方向に拡大していくメタフィクションとしてとても面白かったです。が、個人的には好みの作風ではなかった、という感想です。そういう意味では読む人を選ぶというか、癖が強すぎる個性的な作品という感じかもしれません。

 ということで、『異セカイ系』についての個人的な感想でした。

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