【小説】『ハロー・ワールド』を読みました。現代のITって充分SFの域に達してるよね

 前回の『ポストコロナのSF』を読んでいるとき、ちょうど収録作品『木星風邪(ジョヴィアンフルゥ)』(藤井太洋)を読んでいたときにふと、実はこの作者さんの単著を読んだことがないことに気がつきました。

 短編であればそれこそ『ポストコロナのSF』のようなSFアンソロジーに収録されているものをいくつか読んだことがあり、自分としては馴染みのある作家さんという認識でいたのですが、そうなんです振り返ってみると一冊まるまる藤井作品な本を読んだことがなかったのです。

 そんなわけで藤井太洋作品を読もうと思い、そしてちょうど講談社のセールが開催されていたものですから、講談社の藤井太洋作品に触れてみることにしました。タイトルは『ハロー・ワールド』。……『HELLO WORLD』(野崎まど)とは全く関係ないです。

  基本的な書籍情報。

  著者:藤井 太洋

 『ハロー・ワールド』

  講談社 講談社文庫より出版

  刊行日:2021/3/12

  あらすじ

 エンジニアの文椎(ふづい)が作った広告ブロックアプリがインドネシアで突如売れ始めた。そこに隠された驚愕の事実とは。検閲や盗撮などの問題を描いた表題作「ハロー・ワールド」をはじめ、インターネットの自由を脅かす行為に、知識と技術で立ち向かう文椎の、熱く静かな闘いの物語。第40回吉川英治文学新人賞受賞作。 GoogleカーやAmazonのドローンが次々集まってくる「行き先は特異点」、バンコク出張中にドローンを使った政治運動に巻き込まれてしまう「五色革命」、Twitterが中国に門戸を開いたのを機にTwitterクローン〈オクスペッカー〉をアップデートしてインターネットの自由を守ろうとする「巨象の肩に乗って」、マレーシアのビットコインセミナーに参加中に拉致されてしまう「めぐみの雨が降る」。単行本刊行時にAmazonランキング1位を獲得した話題作が、これまでKindle版でしか読むことのできなかった「ロストバゲージ」を新たに加え、待望の文庫化!

 この作者さんはデビューの仕方が特徴的で、まずは簡単にご紹介。IT会社に勤めながら小説を執筆し、2012年に『Gene Mapper -core-』という小説を電子書籍の個人出版で発表。翌年には改稿版を早川書房から出版し商業作家デビュー。以降、『オービタル・クラウド』が第35回日本SF大賞と第46回星雲賞をダブル受賞。デビュー二年で日本SF作家クラブ会長に就任。そして『ハロー・ワールド』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。

 確か書籍化されたゲンロンSF創作講座の中で、通勤中の電車の中でiPhoneを使って執筆をしていて、スマートフォンでの小説執筆に適したアプリなどを話されていたことが印象に強く、それが藤井太洋という作家を知るきっかけになりました。

 小説投稿サイトからではありませんが、電子書籍のセルフ・パブリッシングからのデビューということを踏まえると、方向性は違えどWEB出身の作家さんといえるでしょう。執筆も隙間時間にiPhoneで書かれていたなど、実に現代的といいますか、先進的といいますか、まさにIT時代らしい作家さんという認識でいます。

 ちなみに著者近影などを検索すると、白髪(はくはつ)が素敵なおじ様がヒットします。

 そしてここから本題。今回読みました『ハロー・ワールド』について。この小説は一言にIT小説と言えます。

 ただこの作者さんは元々IT会社に勤務しており、デビューの経緯もIT的でもあることもあって、IT関連の造詣がかなり深い方でもあります。そしてその専門でもあるIT知識を遺憾なく発揮された作品がまさに『ハロー・ワールド』といえるのでしょう。

 この小説では最先端のITを題材にされていますが、ITに関しては一般ユーザー程度の知識と認識しかない素人の自分からすると、「あれ? 今の技術って充分SFじゃね?」というのが読んでいて感じた素直な感想でした。

 表題作は広告ブロッカーのアプリにまつわるお話ですし、その後もGoogleの自動運転車とかAmazonのドローン配達などのネタを取り入れ、さらには後半では仮想通貨のお話になるといった、現代でも話題になるようなITが作中で描かれています。

 時代設定としては2019年か2020年頃になりますが、この小説は2018年に単行本で発表されたこともあり、単行本では至近未来を描いたSFと言えなくもないです。今回読んだのは今年に文庫化されたものですけど、文庫版にとってはまさに現代を描いた作品になるかと。もちろん執筆時のIT技術と実際の現実のITに差が生じてしまうのは仕方のないことだと思いますが、しかしながら作中でのIT描写は実にリアリティのあるものでした。

 ですが、そういった事情を踏まえたとしても、作中のIT描写はどこか現代を描いたものというよりはまさにSFの世界のような印象を抱きました。いやまあ作者さんがSF作家であるのも要素としてはあるのかもしれませんが、感覚的にはもう少し未来のお話のように感じられましたね。

 ただそれって、SFっぽく書いているというのではなく、むしろ今の時代の技術がもう充分SFの域に達しているからではなかろうか。考えてみれば、皆さん当たり前のように使っているスマートフォンだって、二十年前や三十年前の感覚からしたらまさに夢のようなフィクションな技術の塊ですし、こうした様々なサービスがオンラインで完結するネット社会だってサイバーパンクでしか見ないような設定に感じますけど、実際にはそういった技術はもう実用化されていて私たちの生活の一部になっていますからね。

 あくまで現代的なITのお話ですけど、その「現代的なIT」をよく見てみると実に高度な技術であることに気づかされる。そういった発見(自覚)をされてくれたのが、この『ハロー・ワールド』という小説だったような気がします。

 いやホント、今の技術ってとんでもねぇわ……。

 といった感じで、現代の最先端を描いたIT小説(SFかもしれない)『ハロー・ワールド』は、今まさに読んでよかったと思える一冊でした。

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