【小説】『BEATLESS』文庫版をやっと読み終えた……。そこのアナタ! ハッキングされてませんか?

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2018年11月20日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054887561027

 今年の2月に『BEATLESS』(著者:長谷敏司)が角川文庫で文庫化しましたが、あまりのページ数に積み状態に……。で、ようやく読みました。

 上下巻で1200ページくらいあるんじゃないでしょうか。余裕で100万字オーバーの作品。これ普通なら4、5巻くらいのシリーズになる量じゃないですかね!? 文庫なのに最早小さい辞書みたいな厚さになっている(それでも川上稔クラスではないですが)。

 で、近頃全然時間の確保ができず、今や仕事の行き帰りの電車の中でしか小説が読めない状況に。一日精々30ページ読めればいい方です。よって読み終わるのにまる2ヶ月かかりました。同じ作者の作品をここまで連続で読んだのは久々でしたね。

 随分前に単行本が出ていたし、今年にアニメ化もされているので、内容はすでに知っている作品ですが、しかし改めて読むと深くで面白い!

 というわけで今回は文庫版『BEATLESS』。

 基本的な書籍情報。

  著者:長谷敏司

 『BEATLESS』

  KADOKAWA 角川文庫より出版

  刊行日:2018/02/24

  あらすじ(上巻)

 100年後の未来。社会のほとんどをhIE(フューマノイド・インターフェイス・エレメンツ)と呼ばれる人型アンドロイドに任せた世界では、人類の知恵を超えた超高度hIEが登場し、人類の技術を遥かに凌駕した物資 《人類未到産物(レッドボックス)》が生まれ始めていた。17歳の遠藤アラトは4月のある日、舞い散る花びらに襲われる。うごめく花びらからアラトを救ったのはレイシアという美しい少女の「かたち」をしたhIEだった。

  あらすじ(下巻)

 世に放たれたレイシア級hIEと呼ばれる、レイシアの姉妹たち。オーナーを必要としないスノウドロップ、人間に寄り添う紅霞、人間を利用するメトーデ、「私にこころはありません」と告げるレイシア。人間がもてあますほどの進化を遂げた、人間そっくりの「モノ」を目の前に、アラトは戸惑い、翻弄され、選択を迫られる。アラトが見つけた「ヒト」と「モノ」とのボーイ・ミーツ・ガールが導き出す人類の未来への選択とはーー。

 あらすじにもある通り、「ヒト」と「モノ」との関係をボーイミーツガールで描きつつも、「ヒト」とは「モノ」とはということについてとことん突き詰めたSF小説です。

 作中で様々な視点で「ヒト」と「モノ」についてアプローチされていまして、実に興味深い話が次から次へと展開されています。今回はその中でも、『BEATLESS』のメインギミックである「アナログハック」について触れます。

「アナログハック」については序盤から登場し、物語の最後まで関わってくる重要なワード。作中で細かく説明されていますが、あえて簡単にまとめますと、

 人型のモノに共感することで、意識のセキュリティホールから感情をハッキングする、ということ。

 たとえば、目の前に蹲っている人がいるとしましょう。とても苦しそうです。通常なら赤の他人であっても多かれ少なかれ心配するでしょう。そうして心配して近づいたところ、その人は人間ではなく、人間に限りなく似ている精巧なロボットだったのです。苦しそうにしていたのは、そう行動するような命令があったから。そのことにより、「心配」という感情を誘導され引き出されたことにはじめて気がつく、ということです。つまりロボットの行動によって意識がハッキングされたということ。

 人は頭で考えるより先に視覚の情報が反映されます。頭で「ロボットが苦しそうなふりをしている」と考えるよりも、目で見た「人の姿をしたものが苦しそうにしている」という認識が先行してしまい、結果事実と認識にズレが生じるのです。そのズレを活用して意識のセキュリティホールを広げ、意図した感情を他者から引き出すことを「アナログハック」なのだと、自分は読んでいて解釈しました。

『BEATLESS』の作中では、hIEというパッと見人間と区別がつかないアンドロイドが登場します。hIEの動作はクラウド上のコンピューターで制御され、人に対して最適な反応をするだけの、心も魂もないただの「モノ」です。「ヒト」が好意を寄せればどこまでも「モノ」は応えてくれます。だからこそより効果的に「アナログハック」が成立してしまうのです。

 加えて、作中の時代は技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えてから何十年も経った未来であり、世界中に超高度AIが多数存在していまして、もうそこまでくると、「『モノ』によって『ヒト』が操られている」と感じることもあり、その部分がまた作中で重要な要素となっています。

 さて、物語の中盤あたりで、「ハローキティのマグカップ」を用いて「モノ」についての考察パートがあります。

 ただのマグカップにハローキティがデザインされることで、それは「ハローキティのマグカップ」という意味とかたちになり、ハローキティが好きな人にとってはただのマグカップが特別なマグカップに変わる、というもの。

 つまり「モノ」とは、「意味」と「かたち」によって成り立つのです。

 このことから精巧な「モノ」であるhIEは、人型というかたちと行動という意味によって、人間に影響を与える(アナログハック)という見解となるのです。

 ただこの「ハローキティのマグカップ」の説明でもわかる通り、これ別に『BEATLESS』に限った話ではなく、しかも架空の現象でもないことに気がつくかと思います。そう、この「アナログハック」は、現実でも実際に発生していることなのです。

 作中、序盤において、hIEがモデルの仕事をするパートがあります。アンドロイドが商品である服を纏い、人目を惹くようにポージングすることで、効果的に商品をアピールするのです。広告として「アナログハック」を活用しているというお話になります。

 これはhIEというアンドロイドが行うことで過剰な印象になりますが、しかし現実でも、人間のモデルさんが行っていることと何も変わらないのです。最近のモデルさん……(ヤバい! 最近のモデルさんで出てきたのがエビちゃんという絶対最近の人じゃない名前が出てきてしまった!)が、服を着てポージングすればその服は売れるでしょう。

 そう考えれば、実は「アナログハック」の大本となる部分は、もうすでに……というか随分前からあるということになります。

 さらに「ハローキティのマグカップ」話では、ハローキティという「意味」によって「かたち」の価値が変化することも言っています。

 考えてみてください! 「おっさんが舐めたスプーン」と「橋本〇奈が舐めたスプーン」、どっちにそそられますか!? はいそこ! 気持ちが揺らいだ時点でもうアナログハックにかかってます!

「ただのスプーン」が、「意味」によって価値が変わり、受け手の感情を刺激したのです。つまり「スプーン」という「かたち」でさえ、アナログハックは成立するのです。

 この「意味」は「付加価値」として考えるといいかもしれませんね。商品だろうが情報だろうが状況だろうが、そこにある付加価値によって、感情の抱き方が大きく変化します。そして逆説的に、結果に狙いを定めて特定の感情を引き出すように付加価値を付け加えることで誘導することも、当然できます。

 馴染みのあるものでいえば、「物語」ですかね。誰が書いた小説などの外側の意味だったり、物語のジャンルなどといった内側の意味でも、読んだ人の心を刺激するのが物語というものだと思います。つまりこれも、「作者から読者へのアナログハック」という形式になるかと思います。読者をいかにしてハッキングするかが作者の腕の見せ所では!?

 それらのことを思えば、人間誰しも、他者に対してアナログハックしているし、他者からアナログハックされているということになるのかも。

 つまりは心を動かされる、何かしらの感情を抱いた時点で、誰かに意識をハッキングされているのかもしれませんね。

 そしてその誰かには、こちらを誘導するだけの目的があったりなかったり。……ちょっとホラーっぽいかも。

 そんな意識へのハッキングを、過剰に進歩した「モノ」によって自動化し、新たに「アナログハック」という言葉が登場した近未来のお話が『BEATLESS』を構成する一要素です。心も魂もない機械によって効率よくアナログハックする世界で、「ヒト」と「モノ」との関係を説いた物語。長い話だけど、でもいろいろと考えさせられるいい作品でした。読んで損ないです!

 最後に、作中で一番ツボにハマったパワーワード。

「オレを性的にアナログハックしてくれ」

 ……いやらしい。でも、すごくイイ。

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