【小説】『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』を読みました。もしかしたら「百合」と「百合SF」は別物なのかもしれない?

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年7月17日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

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 SFも好きで百合も好きな自分にとって夢のようなアンソロジーが、早川書房から刊行されました!! 買うしかない読むしかない! そして読んだ!

 収録作品は、主に去年の年末に発売されたSFマガジン(事実上の百合マガジン)に掲載された短編に書き下ろしを加えた9作品。

『キミノスケープ』 宮澤伊織

『四十九日恋文』 森田季節

『ピロウトーク』 今井哲也

『幽世知能』 草野原々

『彼岸花』 伴名練

『月と怪物』 南木義隆

『海の双翼』 櫻木みわ&麦原遼

『色のない緑』 陸秋槎(稲村文吾 訳)

『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』 小川一水

(敬称略)

 それぞれ簡単に紹介しますと、

『キミノスケープ』は「不在の百合」と呼ばれるものです。つまり登場人物が相手を追い求めるものの相手は最後まで登場しない、といったものです。追体験するような作風であり、アンソロジー企画としては一発目から王道を外した意欲作でした。SFとしては、誰もいなくなり改変が置きまくる世界を探索するといった、ポストアポカリプスやパラレルワールドを組み合わせた内容です。

『四十九日恋文』はライト文系のような仕上がりで、SFとしてはそこまでハードに攻めていないものの、というかSFとして薄味でしたけど、でも百合としての尊さはしっかり堪能できる作品です。

『ピロウトーク』は漫画です。文庫で漫画を読むのはなかなか新鮮でした。内容は女の子二人のポストアポカリプスもの。かなり短くしかも漫画なのでサラッと読めてしまいます。

『幽世知能』は間違いなく一番の問題作。いえ作者が草野原々である時点でまともな作品であるはずがないですけどね。草野原々といえばハードSF×バカSFといった独特な作風ですが、今回はかなり真面目路線でふざけずハードSFをしている印象でした。

『彼岸花』はSFマガジン掲載時からのお気に入り作品。大正浪漫をベースにお姉さまとの交換日記でまさかの吸血鬼ものという、これでもかと要素をてんこ盛りにしつつも、綺麗にそして尊く仕上げているのはお見事の一言。スチームパンクならぬブラッドパンクとして造語に「血動二輪ハーレー」と出てきた際には思わずニヤリとしてしまいました。百合としてもSFとしても素晴らしい作品。

『月と怪物』はソ連百合。厳しい歴史背景を描きつつ、超能力研究の実験台に使われる姉、そして姉のおまけの妹の物語。最初は姉妹百合だと思って読んでいましたが、後半まさかのカップリングで驚きました。というか妹ちゃん〇〇やんけ! 硬派な百合もので、百合として一本取られた作品。

『海の双翼』は異種族百合ですかね。文体が海外小説を翻訳したかのような書き方をされていて、個人的にはすごく読みにくかった。というか描写がわかりづらい。海外小説を多く読まれる方なら楽しめるのかも。

『色のない緑』はAIと言語のSF。中国の作家さんの作品で翻訳されて掲載されているのですが、翻訳文体なのにものすごく読みやすくて楽しめました。女性学者による言語学のお話で、SFとして実に興味深い内容で面白かったです。

『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』は、まさに王道宇宙SFで王道の百合でもう面白いの一言。宇宙で漁をする話ですが、バディものとしてときに熱くときにグッとくるエモい内容。作風も文体もライトに仕上げられているため万人受けするSFだと感じました。

 本書でデビューした新人作家から、今注目の人気作家、はたまた超ベテラン作家までもが参加したこの百合SFアンソロジーは、ほぼすべての作品がSFとして傑作であり、SFの作品集としてとても価値のあるものだと感じました。SFの短編をいくつか読みたいと思われている方は是非手に取ってほしい本です。

 一方で百合のアンソロジーとしてみると……正直に言うとなんか物足りませんでした。

 で、何が物足りないのかというと、それはズバリ「尊さ」です。

 SFにはセンス・オブ・ワンダーというものがありまして、つまり「一定の対象(SF作品、自然等)に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚を表現する概念であり、それを言い表すための言葉である」(Wikipedia参照)です。

 このセンス・オブ・ワンダーという概念は何もSFジャンルだけではなく、様々なジャンルにてそれぞれの形式としてあるものだと思います。

 そして個人的に思うのは、百合にとってのセンス・オブ・ワンダーとはつまり「尊さ」を指すものではないかと。本格ガールズラブ作品でも、はたまた本来百合でもない美少女作品においても、ふとしたシーンでグッとくることがあると思います。よく「キマシタワー」とか「あら~」といったコメントが出てくる瞬間がまさにそうだと思います。これらのエモいシーンこそが百合ジャンルにとってのセンス・オブ・ワンダーだと考えています。

 さてこの『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』ですが、参加されている作家さんは全員SF作家です。つまりSFとして傑作に仕上げられるのは当然ですが、一方で百合方面ではそうでもないのでは、と思わざるを得ません。百合は感情を描くジャンルですけど、その感情の百合に対して理論のSFとしてのアプローチをしてしまっているためか、SF要素が百合要素を食ってしまっている現象が起きているのです。百合とSFがうまく噛み合っておらず、百合要素がなくてもSFとして作品が成立してしまっているといった具合。

 言ってしまえば「百合SF」というよりは、「女性が登場するただのSF」でしかない作品が多くみられました。

 この辺りが百合アンソロジーとして物足りなさを感じた要因かもしれませんね。

「百合SF」と聞いて求めていたのは、SFとしての「センス・オブ・ワンダー」と百合としての「尊さ」を同時に堪能できる作品でした。ですが収録作品のSFと百合のバランスがイマイチであり、その部分は残念でなりません。

 これ……今回はSF作家を集めて百合を描きましたけど、逆に百合作家が描くSFというものを見てみたいかも。こう言ってしまうのはアレですけど、新人作家ではなく百合作家を加えて、SF作家と百合作家の両側から「百合SF」というものを追求できれば、百合SFアンソロジーとしていいバランスになるのではと思います。……百合作家というものにどなたが該当するのかはわかりませんけど。

 もちろん百合SFアンソロジーと銘打っているだけあって、収録作品は全て広義的な百合作品であることは間違いありません。本書のまえがきにて「あらゆるジャンルがそうであるように、百合の定義もそれどれの作り手・読み手たちに委ねられて常に更新され続けていくものではありますが――」と書かれており、そして現在では「女性同士の関係性を扱うもの」という幅広い解釈であるのは、全くもってその通りだと思います。ただ個人的に収録作品は百合として変化球なものが多かったのでは?と感じました。

「百合SF」というジャンルは発展途上ですから様々な方向性の挑戦的な作品が登場するわけですが、もし早川書房が示す「百合SF」の方向性がこういったものであるならば、私は「百合」というジャンルの認識を改めなければと痛感させられました。コミック百合姫に掲載されるような百合と、SFとして求められる百合は全くの別物なのかもしれませんね。

 ひとまず私個人としての百合観のもと、センス・オブ・ワンダーと尊さを同時に感じる百合SFとしてよかったのは『彼岸花』と『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』でした。この二つはSFとしても素晴らしく百合としても素晴らしい、「百合SF」というジャンルとして間違いなく傑作だったと感じました。

 そして今回否定的なことをアレコレとほざいていましたけど、ただSFアンソロジーとして秀逸だったのは間違いありません。傑作が多い作品集ですのでSFファンが手にとっても充分満足いただけると思います。

「百合SF」という、それまで大々的に交わることのなかった、コアでマニアックなジャンルを掛け合わせた新しいジャンルだと認識していますが、新しいこそ広い可能性に満ちていると考えています。「百合SF」というものが今後より発展していくことを是非とも期待したいですね。

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