【小説】『2010年代SF傑作選2』を読みました。新鋭作家ならではの勢いがある!

 以前、『2010年代SF傑作選1』を読みこちらで記事にしましたが、今回は二巻目となる『2010年代SF傑作選2』です。第一巻はゼロ年代までにデビューしたベテラン作家の作品を集めた傑作選でしたが、第二巻は2010年代にデビューした新人作家を集めたSF集となっております。こちらもベテラン勢に劣らず、むしろ食らいつくかのような勢いのある作品ばかりでとてもよかったです。

  基本的な書籍情報。

  編者:大森 望

     伴名 練

 『2010年代SF傑作選2』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2020/2/6

  あらすじ

 ハヤカワSFコンテストと創元SF短編賞という2つの新人賞が創設された2010年代。ジャンル外の文学賞でも評価される宮内悠介、高山羽根子、小川哲をはじめ、酉島伝法、柴田勝家、倉田タカシなど両賞から輩出された数多くの才能、電子書籍やウェブ小説出身の藤井太洋、三方行成、そして他ジャンルからデビューの野﨑まど、小田雅久仁――日本SFの未来を担う10作家を収録する、2010年代ベストSFアンソロジー第2弾。

 収録作品は以下の通り

『バック・イン・ザ・デイズ』 小川 哲

『スペース金融道』 宮内悠介

『流れよわが涙、と孔明は言った』 三方行成

『環刑錮』 酉島伝法

『うどん キツネつきの』 高山羽根子

『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』 柴田勝家

『従卒トム』 藤井太洋

『第五の地平』 野﨑まど

『トーキョーを食べて育った』 倉田タカシ

『11階』 小田雅久仁

 それではネタバレにならない程度に割愛しながら簡潔に紹介していきます。

『バック・イン・ザ・デイズ』は、位置情報だけではなく視覚や聴覚といった感覚も含めた個人情報を提供することで豊かな生活を約束される実験都市、というディストピア的な世界を下地に、事情を知らず育った主人公は父親亡きあとに秘密を明かされるという親子の物語。こちらは作者デビュー作である『ユートロニカのこちら側』の第二章として発表されたものを短編作品扱いで掲載されたもののようです。単体でも読める作品でしたが、やはり全体となる『ユートロニカのこちら側』がどういった作品なのか気になりました。

『スペース金融道』はバカSFその1。宇宙空間においての闇金を題材にしたお話で、相手が異星人だろうが宇宙の果てに逃げようが構わず全力で取り立てに向かうという内容。ネタ的にコミカルで楽しめる作品ですが、一方でしっかり経済の話を絡ませており、またSF的な考証考察もきちんとしていて、作風のキャッチーさと同時に確かな読み応えも合わさった良作でした。

『流れよわが涙、と孔明は言った』はバカSFその2。しかも歴史改変バカSF。カクヨム出身としてお馴染みの作者で、「泣いて馬謖を斬る」の故事をもとに面白おかしく味付けをした内容。冒頭二行〝孔明は泣いたが、馬謖のことは斬れなかった。硬かったのである。〟といった具合に最早出オチ一発ネタで勝負した爆笑もののコメディ作品となっています。SFとしても後半壮大なスケールにまで拡大していきますので、最後まで意外性とネタに困らない、まさにバカSFと呼ぶにふさわしい怪作。

『環刑錮』はなかなかグロかった……。刑務所不足に端を発し、囚人の肉体をミミズや芋虫のような形に肉体改造して地中に投獄するといった設定。この作品の注目すべきところは、なによりも描写力にあると思います。細かく丁寧に描写されているため、ミミズ状の囚人がどのように投獄生活を送っているのかを生々しく表現されていて、否応なしに想像できてしまいます。虫嫌いな自分としては絶対映像で見たくないお話ですね。あとクライマックスにおいての意識と身体の崩壊を文章構成によって巧みに表現されている点も素晴らしいの一言。小説としてとんでもないクオリティの作品でした。

『うどん キツネつきの』はSFはSFでも所謂すこしふしぎに該当する作品。高校生の姉妹はある日街で生き物を保護するといったお話で、「うどん」と名付けられたその生き物のことを、姉妹の成長を描く中で語られていきます。が、姉妹やその家族は「うどん」のことを犬として扱っていますけど、どう考えてもそれ犬じゃない……。基本現代的な日常系ストーリーなのですが、「うどん」の存在であったり、またラストに盛り込んだSF要素であったりといったところが、日常とSFとの融合を見事に演出されており、これぞまさにすこしふしぎといった作品でした。小説作品として文章がとても読みやすくスラスラと読めてしまうのですが、正直オチはよくわかりませんでした。

『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』は民俗学とSFを組み合わせたもので、中国のとある少数部族では生まれて間もなくVRヘッドをつけて一生を過ごす文化があり、外部の学者がその部族を研究対象として観察する話。当然現実とVRは別空間であり、果たして人が認識している「現実」とは何か、といったある種哲学的な問いを短編作品として簡潔に突き詰めた内容となっています。確かこの作品は星雲賞の短編部門を受賞したと記憶していまして、SFとしてとても興味深い見解が得られるお話になります。オチとしても設定をうまく活用していて秀逸でした。

『従卒トム』はもともと伊藤計劃&円城塔の共著『屍者の帝国』のアンソロジー企画、『屍者たちの帝国』に収録されたもので、所謂『屍者の帝国』の二次創作にあたる作品。死体に屍者技術を用いて労働力として再利用するといった『屍者の帝国』の設定を踏襲しており、アメリカの黒人奴隷の男性を主人公にして幕末の日本を描いた話になります。屍者技術の設定を簡潔にまとめ、そこから兵器としての屍者の運用方法を描いたところは、たとえ二次創作であったとしても確かなオリジナリティを感じ、二次創作に収まらず単品として楽しめる良作でもあります。

『第五の地平』はバカSFその3。そしてまさかの歴史改変バカSF二本目。モンゴルに一大帝国を築き上げたチンギス・ハーンが、まさかの宇宙にまで進出するトンデモ話。宇宙に進出するため宇宙草で草原を作り、しかも三次元方向に草原を伸ばそうとするアイディアはいい意味でバカ丸出しで爆笑もの。同じく収録されている『流れよわが涙、と孔明は言った』と同レベルのバカSFです。映画『HELLO WORLD』の脚本や最近テレビアニメ放送された『バビロン』などの真面目なエンタメとは違い、こういった人を食ったような作風は作者の掌編集『野崎まど劇場』を彷彿とさせます。というか『野崎まど劇場』のノリを短編SFにした感じです。

『トーキョーを食べて育った』は核によって汚染された世界を描いたポストアポカリプス作品。少し歴史改変の要素もあります。十歳前後の少年少女たちがパワードスーツを着込んで荒廃した東京を探索するお話で、子供らしい無邪気さがあってそこまで重たい内容ではありません。それはひとえに、十歳の少年を語り部とした一人称小説であり、描写などもドーンとかバーンなどといった子供らしい擬音で表現されていて、幼さやあどけなさの演出としてとても素晴らしいと思いましたね。ただ同時に、子供の語彙力で語られる物語のため、その、非常に読みにくかったです。

『11階』は幻想文学的な作品で、SFとしては薄味気味。新婚夫婦に侵食している異界「11階」のお話は日常の中にある非日常感があり、これもすこしふしぎ的なSFだと感じました。話のテイストとしては結構ホラー寄りな感じがして、得体の知れない不気味さを体感できる作品になっています。

 さて、収録作品を簡単に紹介してきましたが、こうして振り返ってみると、ネタ的であったり文学的であったりといった具合で、いろんな意味で突き抜けた作品ばかりだったという印象を受けました。ちなみに今回はほぼ半数の作品が既読であり、未読作品と一緒にもう一度楽しみました。

 第一巻のベテラン作家集では、よくも悪くも手堅い作品のように感じられましたが、一方第二巻である新人作家集では新人だからこそできる勢いで押し切る熱量を感じました。というかバカSFの存在感が強烈だったんですけどね。

 個人的には、SF初心者にオススメしたいのは第二巻の方ですかね。こちらの方がキャッチーさがあって親しみやすいかと。それにこれからのSFシーンを牽引していく新しい才能に馴染めれば、今後発表されるであろうSFの新作に期待を寄せることができるかと思います。その上で、よりSFというジャンルを深めるために第一巻を読んでみるのがいいのでは、といった印象を抱きました。

 なんにせよ、一巻と二巻のセットで今現在のSFシーンを掴むのに最適な作品集かと思います。SFに興味がある方は一読してみてはいかがでしょうか。

 といった感じで、『2010年代SF傑作選2』でした。

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