【小説】『2010年代SF傑作選1』を読みました。改めてSFは自由なジャンルだと感じた

 今回読んだのは、ハヤカワ文庫JAから今月出版されました『2010年代SF傑作選1』です。文庫で480ページほどある本のため読むのに時間がかかりましたが(読むのが致命的に遅いのが原因ですが)、なかなか良作揃いのアンソロジーでしたので満足です。

  基本的な書籍情報。

  編者:大森 望

     伴名 練

 『2010年代SF傑作選1』

  早川書房 ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2020/2/6

  あらすじ

 2002年のJコレクション、2003年のリアル・フィクションなどで再生を果たした日本SFは、2010年代に黄金の時を迎えた。第一人者の神林長平を筆頭に、飛浩隆、田中啓文、北野勇作のベテラン勢、少女小説/ライトノベル出身の津原泰水、小川一水、長谷敏司、ゼロ年代デビューの上田早夕里、円城塔、仁木稔―2010年以前にデビューし、現在の日本SFを牽引する10作家を収録する、2010年代ベストSFアンソロジー第1弾。

 収録作品は以下の通り

『アリスマ王の愛した魔物』 小川一水

『滑車の地』 上田早夕里

『怪獣惑星キンゴジ』 田中啓文

『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』 仁木 稔

『大卒ポンプ』 北野勇作

『鮮やかな賭け』 神林長平

『テルミン嬢』 津原泰水

『文字渦』 円城 塔

『海の指』 飛 浩隆

『allo, toi, toi』 長谷敏司

 短編の作品集のため、各作品を詳しく解説していくとほぼほぼネタバレ状態となってしまいますので割愛しますが、それでは紹介になりませんので簡潔に語っていきます。

『アリスマ王の愛した魔物』は数字がキーなる作品。数字の天才である王子のもとに異星人を思わせる雰囲気の謎人物が現れる話で、あらゆるものを数字で予測する人力演算システム的なものを使いこなす王子は、自身の国やその隣国までを巻き込んで世界を大きく動かしていく内容。科学的な要素は控えめであり、どちらかというとファンタジー感のある作品。作中の名称などから西洋を思わせつつも、文体からは古代中華の雰囲気を感じるところも、この作品が纏うファンタジー感をプラスさせている要素かもしれません。

『滑車の地』は終末感のある作品。地上が泥の沼みたいになりそこに生息している化け物を避けるため人々はいくつもの塔で暮らして滑車で移動している、といった感じの世界観のお話で、設定がかなり奥深く読み応え抜群でした。また物語としても、そこに住まう人々のドラマが魅力的でグッと引き込まれます。が、この作品はまるで長編予定だったプロットを短編として書いた感がありまして、つまりは「俺たちの戦いはこれからだ」エンドのような打ち切りぶつ切り感があり、読後思わず「続きは?」と思ってしまいました。この作品は是非とも長編として読みたかったですが、一方で短編として読みその後を妄想する楽しみが用意されている、といった幅のある作品であるのかもしれませんね。

『怪獣惑星キンゴジ』は一見バカSFですが、でも実際に読んでみると一本取られた感のある面白い作品でした。まあゴ〇ラのパロディなんですけど、とある惑星の動物園的な怪獣施設で飼育されていた怪獣が殺されて探偵が殺怪獣事件について推理する、というまさにバカSFらしい設定。ですがミステリーとして妙に本格的であり、またラストもどことなくファーストコンタクトものの要素があるような気がしまして、「そうきたかー」と思わず唸ってしまいました。なんといいますか、適切な表現ではないかもしれませんが、設定はバカなのにすごく面白くてなんか悔しい、といった感想を抱いた作品でした。

『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』は海外SF感のある作品でした。まあ海外が舞台の話(アメリカを彷彿とさせる架空の国)だからなのかもしれませんですけど。遺伝子技術が発達した架空の2001年を舞台に、遺伝子技術によって生み出された「妖精」なる人工の生命体を労働力として活用している世界観。この「妖精」という存在から物語が動いていくわけですけど、そこには現実での人種問題であったり宗教の価値観であったりするものを痛烈に皮肉っている感じがして、やっぱなんか海外ドラマっぽさを感じた作品でした。

『大卒ポンプ』はもうタイトルそのまんまなんですが、大卒社員が文字通り水をくみ上げるポンプになったという話。バカSF感のあるユーモアな内容ですが、お話自体は割と真面目といいますか、読後感としてどことなく哀愁さを抱く結末でしたね。具体的な時代設定等は明かされていなかったのですが(見落としただけかも)、なんとなく戦後日本を思わせる舞台設定のように感じられましたので、歴史改変SF(?)としてとても面白かったです。

『鮮やかな賭け』は、まあ序盤はただの痴話喧嘩なんですけど、実はまさかのスケールの話に発展していくという驚きの一作。ただの痴話喧嘩の背景では宇宙SFの要素や仮想現実などといった直球なSF要素が盛り込まれていて、「これぞSF」みたいな本格さを感じられた作品でした。オチとしても作中においての「存在」の在り方みたいなところまで発展していき、短編でありながらも結構ハードな内容でした。

『テルミン嬢』は医療系SFと言えばいいでしょうか。「ミジンコ」の愛称である極小のマシンを脳に入れ、頭の中から音楽療法で神経症を治療するといったもの。「ミジンコ」の音による治療の経験がある女性にスポットを当て、とある男性と出会ったことで誤作動のような症状が出てしまうといった具合のお話。まさに楽器のテルミンのよう。オチとしては壮大なスケールの物語に発展しそうな予感がして、全体的にハードさのあるSF作品でした。

『文字渦』はこれぞまさに円城塔作品といったところですね。始皇帝の墓から発掘された膨大な漢字から始まるこの話は、「文字」というものに対して思索的にアプローチしている感じがして、まさに「文字」そのものが呼吸している生物であるかのような印象を抱く内容でした。これは小説だからこそ描ける世界観。というか見たことのない漢字ばかり登場して、一体どこからこんな漢字を見つけてくるのだろうと素直に驚きました。円城塔作品はよく「難しい」や「よくわからない」といった感想が出てきまして、この作品も難しいといえば確かに難しい内容です。でもその常人の理解を超えているアイディアを楽しむのかまさに円城塔作品の特徴だと認識していまして、そういう意味であればこの作品も円城節を遺憾なく発揮されていて個人的にとても楽しめました。

『海の指』はSFらしいSF作品。海の代わりにあらゆるものを情報的に圧縮して分解する灰洋(うみ)に覆われた世界にて、僅かな土地にはかつて世界中にあった様々な建築物がキメラ的に融合して流れ着いてしまっているという、作品の世界を想像するとそのカオス具合がはっきりとわかってしまう設定になっています。そこから展開されていくお話は、パニックホラー感あふれるポストアポカリプスであり、世界観設定のエモさとサスペンス的なドキドキ感が合わさった良作でした。

『allo, toi, toi』は長谷敏司作品であるハードSF『あなたのための物語』のスピンオフともいえる作品で、収録されている作品集『My Humanity』はSF大賞を受賞しています。今回唯一の既読作品。疑似神経を脳に作り出し経験や記憶などを再現するといったもので、小児虐待者で収監されている囚人の主人公が矯正実験の被験体となる話。ペドフィリア描写は当然のことながらありますが、作中において普遍的なテーマに迫っているので、人を選ぶ作品かと思いますが一読する価値があるくらい面白い作品です。

 さて、こうして簡単ではありますが一通り紹介してみると、本書に収録されている作品がいかにバラエティ豊かであるのかを再認識させられます。若干ファンタジー風味の作品もあれば、最早出オチ感のあるネタ作品もあり、円城塔作品のようなぶっ飛んだカオスもあって、やっぱり当然のことながら王道的で真面目な作品もあるといった感じで、改めてSFというジャンルが持つ懐の深さや自由度の高さを痛感させられましたね。

 今現在のSFシーンを掴むには最適な一冊。こちらは二巻セットになっていて、今回読んだ第一巻はベテラン作家の作品を集めたものとなっています。第二巻は2010年代にデビューした新人作品を揃えたラインナップとなっており、こちらもこのあとゆっくり読み進めていきたいと思います。

 ……自分読むのが非常に遅いので、おそらく次回の更新も間が空いてしまうかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。

 まあともあれ、『2010年代SF傑作選1』でした。

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