【小説】『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』を読みました。ガチガチだけどゆるゆるでハートフルなライトSFですねコレ

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年11月27日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054891922517

 長いこと積読の積読(Amazonのほしい物リストに入れたまま長期間忘れる)していたので、増税前に購入して案の定積読(購入してから読まずに放置)した小説をようやく読みました。タイトルは『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』です。

 ……と、実は読んだのは一ヶ月くらい前になります。そういえば記事にしていなかったと今更になって思い出し、こうして記憶を頼りに記事を書いています。積読に関しては常習犯ですけど、ついにはエッセイの記事すら積む事態に!

  基本的な書籍情報。

  著者:籐真 千歳

 『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』

  早川書房、ハヤカワ文庫JAより出版

  刊行日:2014/07/10

  あらすじ

 鏡状門(ミラーゲート)の開発によりC.D.鉄道(コンプレス・ディメンション・トレイン)網が実用化され、世界が数時間で結ばれる時代。東京駅上空2200mに浮かぶ幻の第11番ホームにひとり勤務する全身義体(フル・サイボーグ)の少女T・B(ティービー)は、150年前の事件で別れた仲間との再会を願っていた。時折ワケありの乗客が降り立つばかりの閑散とした駅にある日、謎の車輌が高速で突進してくるという警報が……《スワロウテイル》世界の裏の出来事を描いたデビュー書籍に未収録作を加えた連作完全版!

 元々10年くらい前に電撃文庫から出版された作品のようですが、その後作者さんはハヤカワ文庫で『スワロウテイル』シリーズを刊行して、そのシリーズが完結してからデビュー作である今作をハヤカワ文庫から出版したそうです。復刻というか、リメイクというか、つまりは再販です。

『スワロウテイル』シリーズがかなり作り込まれたエンタメSFでして、簡単に世界観を説明しますと、かなりヤバい原因不明の新種性病が蔓延してパンデミック防止のため東京湾に浮かぶ人工島で男女を隔離した近未来で、異性と接触できなくなった人類は代替のパートナーとしてマイクロマシンを細胞代わりにした人工妖精作り、男性地区では女性型人工妖精、女性地区では男性型人工妖精と暮らし、マイクロマシンによって高度に発展した人工島を舞台に、複雑に絡み合った問題や事件に直面する、といったお話。もう世界観設定を読むだけでご飯が食べられるほど美味しい設定であり、個人的に大興奮した作品。とくに一作目の『スワロウテイル人工少女販売処』はこれまで読んできたSF作品の中でも(にわかSFファンのため読書量が少なく偏りがある)トップクラスで面白かった傑作と記憶しております。

 そんな『スワロウテイル』シリーズの作者さんによる別作品が今回の主題『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』です。作品としては『スワロウテイル』シリーズの方が後になりますが、遡るかたちでデビュー作を読み、こちらもなかなかエモいSF作品だったという感想を抱きました。

『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』の内容を簡単にまとめますと、ワープ航行が実用化された未来の話で、存在するはずがない幻の東京駅11番ホームには訳ありの車両しか発着せず、訳ありだからこそ厄介なドラマが発生する、といったものです。ちなみに東京駅の11番ホームというのは開業以来ずっと欠番でありリアルで幻のホームらしいです。

 元が電撃文庫で所謂ライトノベルレーベルからの刊行でしたので、作風としては軽めではあります。もっともガチガチでゴリゴリのSFで1ページあたりの文字密度がぎっしり詰まっていて尚且つ毎回500ページオーバーする文庫シリーズ『スワロウテイル』と比べると、『θ 11番ホームの妖精』はライトな作風です。しかし一般的なライトノベルと比較すると世界観の作り込みといった面ではかなり練られているのが窺えます。ちなみにですけど電撃文庫版は300ページ少々なのに、ハヤカワ文庫版では400ページオーバーで500ページに迫る勢いとなっていますが、この作者さんはページ数を盛る特徴でもあるのでしょうか? 未収録エピソードと加筆修正があったとはいえ、長いよ!

『θ 11番ホームの妖精』のライトノベルとしての要素は、もっともわかりやすいところとして、登場人物たちのノリでしょうか。しっかりとした雰囲気のあるSF世界の中で、キャラ同士の関係が軽いと言いますか、会話劇がとてつもなく軽快なところですかね。舞台装置としての世界観に反して「ノリ軽ッ!」といった具合ですね。

 こういった要素が、SFという敬遠されがちなジャンルをうまいこと中和していて、読者側にSF的高度な読解力を必要とさせない仕上がりになっていると感じました。SFとしてのガチガチとキャラクター小説としてのゆるゆるという、相反する要素が絶妙に溶け合った作品のように思え、SF初心者に最適な入門的作品という印象でしたね。作品の内容としてもハートフルな人物ドラマが描かれていますのでとっつきやすいかと。少なくとも『スワロウテイル』シリーズよりは断然読みやすいと思います。

 といった感じで、『スワロウテイル』シリーズの作者さんのデビュー作『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』でした。個人的には……『スワロウテイル』シリーズの方が好きですね。というか『スワロウテイル人工少女販売処』がマジのガチで良作なので、オススメするとしたらこちらですね。まあ作品同士を比べるのもおかしい話ですけど、あえてどちらが好みだったかと聞かれれば……『スワロウテイル』かなー、という具合です。どっちも面白いです。

(ぶっちゃけハヤカワ文庫で出すならライトな要素を削ってもっと本格寄りにリメイクすればよかったのに。それ以前に、そもそもこういう感じの作品を電撃文庫から出すのは無理があるのではなかろうか。あくまで個人的な感想ですけど、電撃から出すために無理した部分をそのままSFのハヤカワで出されても……)

「SFに挑戦してみたいけど難しそう……」と思っている方、『θ 11番ホームの妖精──鏡仕掛けの乙女たち』で感覚を掴んでみてはいかがでしょうか? SF入門作品としていい作品だと思います。

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