【映画】『空の青さを知る人よ』を見てきました。「見方を間違えてはいけない作品」と思ったのはきっと自分だけでしょう

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年10月18日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054891748256

 10月11日より劇場公開されましたアニメ映画『空の青さを知る人よ』を、先日見てきました。率直にいい作品だと思いました。……が、多分私はこの映画を間違ったかたちで鑑賞してしまったようです。……いや多分というか、絶対に。

 というわけで劇場アニメ『空の青さを知る人よ』についてです。

 ※この記事の後半はかなりマニアックでどうでもいいことしか書かれていませんので、興味ない方は読み飛ばしてください。

 公式ページ

https://soraaoproject.jp/

 東宝ページ

https://www.toho.co.jp/movie/lineup/soraaoproject.html

 あらすじ

 山に囲まれた町に住む、17歳の高校二年生・相生あおい。将来の進路を決める大事な時期なのに、受験勉強もせず、暇さえあれば大好きなベースを弾いて音楽漬けの毎日。そんなあおいが心配でしょうがない姉・あかね。二人は、13年前に事故で両親を失った。当時高校三年生だったあかねは恋人との上京を断念して、地元で就職。それ以来、あおいの親代わりになり、二人きりで暮らしてきたのだ。あおいは自分を育てるために、恋愛もせず色んなことをあきらめて生きてきた姉に、負い目を感じていた。姉の人生から自由を奪ってしまったと…。そんなある日。町で開催される音楽祭のゲストに、大物歌手・新渡戸団吉が決定。そのバックミュージシャンとして、ある男の名前が発表された。金室慎之介。あかねのかつての恋人であり、あおいに音楽の楽しさを教えてくれた憧れの人。高校卒業後、東京に出て行ったきり音信不通になっていた慎之介が、ついに帰ってくる…。それを知ったあおいの前に、突然“彼”が現れた。“彼”は、しんの。高校生時代の姿のままで、過去から時間を超えてやって来た18歳の金室慎之介。思わぬ再会から、しんのへの憧れが恋へと変わっていくあおい。一方で、13年ぶりに再会を果たす、あかねと慎之介。せつなくてふしぎな四角関係…過去と現在をつなぐ、「二度目の初恋」が始まる。

 予告(YouTube)

 予告2(YouTube)

 監督は長井龍雪、脚本が岡田麿里、そしてキャラクターデザインと総作画監督に田中将賀という、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(『あの花』)や『心が叫びたがってるんだ。』(『ここさけ』)などで知られるチームの最新作が今作の『空の青さを知る人よ』となります。(敬称略)

 ちなみにこのお三方によるアニメーションチームのことを「超平和バスターズ」と呼ぶそうで(『あの花』に同名のチームが登場します)、『あの花』や『ここさけ』と同様、今作『空の青さを知る人よ』の原作も「超平和バスターズ」とクレジットされています。

 映画『空の青さを知る人よ』のキャッチコピーが「これは、せつなくてふしぎな、二度目の初恋の物語」という一見ラブストーリーのように思えますが、ところがどっこい! 恋愛以外の要素が強いのです。

 もちろんキャッチコピーになるくらいですから、物語としても恋愛要素は切っても切れないのですが、最後まで鑑賞したときに「これは恋愛映画ですか?」と問われたら間違いなく「恋愛映画ではない」と答えてしまうでしょう。それくらいに、この『空の青さを知る人よ』においての恋愛要素はおまけのようなものです。……いや、おまけというと語弊がありますので、正しく表すなら、恋愛要素が物語を動かす動力となっているだけ、といった具合でしょうか。ちゃんと恋愛していますが、作品のメインテーマはもっと別のところにある感じですね。

 ではこの『空の青さを知る人よ』という映画で描かれているテーマとは何か? テーマ性が複数あってとても一つに絞ることはできないのですが、あえて厳選すると「姉妹愛」や「理想と現実」といったものでしょうか。

「姉妹愛」については、あらすじでもその一部分を読み取ることができます。主人公のあおいは17歳の高校二年生であり、13年前に両親を亡くしています。一方姉のあかねは当時高校三年生であり、当時4歳の妹あおいの親代わりとして、高校卒業後上京を諦めて就職します。以降、今に至るまで姉妹二人で暮らしてきたわけです。そういったバックボーンがあるため、妹のあおいは地元を離れて一人立ちすることで、自分自身という呪縛から姉を解放したい、という思いを心の奥深くに抱えているのです。

 そしてこのテーマを動かすのが、恋愛要素となるわけです。

 図解にするとわかりやすいと思います。

 こういった具合に、恋愛要素によって物事が大きく動き出しますが、しかし実際に変化しているのは恋愛とは違うポイントになっているわけです。姉へ負い目を感じているものの素直になることができないのですが、次第に姉の想いや強さというものを実感していくストーリー。「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」という言葉がこの作品のキーワードとなるのですが、映画の内容としてはまさにこの言葉そのまんまといったところです。

 つまり恋愛によって動いた物語が恋愛以外の結末に至る、というお話になるわけです。よって確かに話としてはラブストーリーであることには間違いないのですが、実際に恋愛映画としてのカタルシスは控え目であり、感動するポイントはズレているといった具合になります。

 加えて作中で力強く主張しているテーマがどちらかと言うとしんの/慎之介サイドの「理想と現実」でもあり、アーティストを夢見る13年前のしんのと、打って変わっておっさんの慎之介は社会の現実にもみくちゃにされて出涸らしみたいな状態になっており、この天と地ほどの差がある意識が陰と陽みたいに対になっている印象を受けました。実際作中で13年前のしんのとおっさん慎之介が邂逅するシーンにおいてこのテーマによるメッセージ性が強く起爆する展開となっております。恋愛を起点に様々なテーマが入り乱れるといった感じです。

 そのため恋愛映画を期待して見に行くと期待外れな感じになりますが、しかし期待外れではあるもののそれを覆すような大きくて思わぬ収穫が得られてしまい、結果として作品を楽しめてしまえる、という内容でした。この映画は、入場時と退場時では作品に抱くイメージが大きく変化するタイプの作品だと思います。

 で、鑑賞後に感じたのは、「このキャッチコピー合ってるか?」といったものでしたが、合っているようで合っていないし、合っていないようで合っているので、実に妙なキャッチコピーな感じがして不思議な気分になっています。なんかこう、個人的にはもっと推すべきポイントがあったような気がしないでもないです。ハイ。

 といった感じで映画『空の青さを知る人よ』を語ってきましたが、しかし! 自分はこれら映画の内容とは全く別のところで感動していました。それは楽器作画のことです。

 アニメーション作品において楽器が登場するのはさして珍しいことではありません。これまでに音楽を主題にした作品は多く発表されましたし、音楽作品ではなくとも演出の一環として楽器が出てくる作品もあります。

 しかしアニメにおいて楽器を正確に描き込んでいる作品はほぼありません。とくに音楽作品ではないアニメにおいての楽器作画は酷いものであり、人物の作画はすごくこだわっていて綺麗なのに演奏している楽器だけピカソ並みに作画崩壊していることが多々あります(ピカソに失礼!)。それらはもう一目見ただけで楽器として機能しないとわかってしまうほどにおかしい描き方をされています。

 また音楽アニメであっても作画が怪しいものがありまして、たとえばバンドアニメで有名な『けいおん!』においても、基本は楽器の特徴を絶妙に捉え忠実に描いておりクオリティ高いのですが、ふとしたところで歪んでしまっているシーンもあります。最近の作品で言えば『キャロル&チューズデイ』なんかも、気合入れているシーンでの楽器作画は素晴らしいのですが、通常シーンにおいて楽器だけが作画崩壊しているのが散見されました。結構頑張って作画していたのが『バンドリ』なのですが、二期に関してはCGアニメなので綺麗は綺麗ですけど、そりゃCGですからね……。

 といった感じで、楽器を細かく描けている作品ってなかなかないんですよね。

 一方『空の青さを知る人よ』の楽器作画については、もう文句のつけようがないくらい、何なら今まで見てきたアニメ作品の中で一番の楽器作画だったと言っても過言ではありません。

 主人公あおいが使っているベース、メーカーはエピフォン(作中一瞬だけロゴが見えた)のサンダーバードというモデルのベースであり、型番としては「Thunderbird PRO-IV」が一番近いと思われます。木材の張り合わせ方が似ていますし、なにより通常のサンダーバードは太いネジによる三点留めのブリッジなのですが、作中であおいが使用しているサンダーバードはブロックタイプのブリッジであるというのも同じです。ただこのモデルで水色系のカラーリングは見たことがないので、アニメ作品オリジナルの要素だと思います(商品化したら売れるんじゃね?)。

 さらに冒頭の橋のベンチでベースの練習をするシーン(あおいが練習のためイヤホンをつけた途端周囲の音が消える演出が印象的なシーン)においてはVOXというメーカーのアンプが登場しますが、このアンプは「amPlug」シリーズのベース用であり(形と色で特定)、イヤホンジャックにヘッドホンを差し込むだけで良質なサウンドを出力できてしかも手のひらサイズという優れたポータブルアンプです。

 などといった、ちゃんと実物の資料を用意して作画されていることが窺えるものであり、楽器が登場するどのシーンにおいても楽器マニア(楽器警察)も満足できてしまうほど細部まで描き込まれています。

 そして自分が一番感動したのが、作中においてしんののファイヤーバード(老舗メーカーであるギブソンの、フラットトップとフルサイズのハムバッカーから「Firebird Studio」だと思われます)が派手に弾けるシーン。もうパーンという具合で吹っ飛ぶのですが、このシーンにおいて弦が切れた際にしっかりテールピースが外れている様子がかなり細かい。テールピースというのは弦を止めておくパーツなんですけど、ギブソンなどで使われているタイプのテールピースは固定されているものではなく弦の張力によってスタッドに押さえつけられているだけなので、弦を一気に外すと簡単に取れてしまうのです。

 で、さらに驚異的なのは、テールピースがしっかり外れているのに対してブリッジ本体は外れていないというところ。ブリッジもテールピース同様弦によって押さえつけられているだけなので弦を外せば容易に取れるパーツなのですが、しかし作中では外れていない。これに関しては、実は老舗メーカーギブソンの作りが結構粗く、稀に寸法ガバガバなのにそのまま無理やり組み込んで出荷している個体があり、そういった寸法ガバガバな個体はガチでブリッジもテールピースもその他のパーツもきつくて外せないくらい固着しちゃっているんですよね。酷いときは楽器として調整不可能なレベルで固着しているものもあります。もちろん近年の工場はオートメーション化が進んでおり、出荷時からガバガバな個体はかなり少なくなってはいますが、少し前まではレアケースとしてそういった楽器が市場に流れていたのです。ちなみにテールピースもブリッジもネジで固定できるタイプのものもありますが、しかし片方だけ固定されていないのはあまりにも不自然でとても考えにくく、またこのモデルに固定式のパーツが使われていたとは思えないので、可能性としては低いと思います。

 こうした楽器業界の裏話までもを調べ上げ研究して作画しているのは、もはや驚異的といっていいでしょう。……まあ普通に考えれば資料用として提供されたギターがたまたま寸法ガバガバな個体だっただけでしょうが、それでも資料としてレアケースの個体を引き当てたことにより、楽器マニアもビックリな表現と化しているのです。

 よって、しんののファイヤーバードが弾け飛んだシーンを見たとき、「まさかの寸法ガバガバなギブソンだッ‼」とマジのガチで驚愕しました。いや誰もアニメ作品でここまで描写すること望んでないよ……。楽器マニアとしてとんでもねぇアニメだ、と素直に思いました。というかここまで描き込んだ制作陣が怖いわ……恐ろしい……。

 ちなみにですが、ギブソン社がファイヤーバードシリーズで「Firebird Studio」を発表したのが確か2000年代中頃だったと思います。そのため13年前のしんのがこの「Firebird Studio」を使用していたことは、作中の時代設定的にも合致するのです。また「Studio」系モデルはギブソンのラインナップの中でも比較的価格の安い廉価版であり大体十数万円くらいから購入可能(中古ならもっと安い)。作中においてバイト代貯めて買ったと言っていましたが、確かに「Studio」であれば高校生のアルバイトでも手が届く価格帯ですね。製造年代や値段も設定に組み込んでいるとは、制作スタッフが本気過ぎます……。

 ただ楽器マニア(楽器警察)として一つ気になったシーンがありまして、しんののギターの弦が錆びている場面において、あおいが「弦買ってこようか? ニッケル――」と話しを遮られるのですが、ここが少し不自然に思えたのです。というのも、エレキギターの弦の材質は大抵ニッケルなので。もちろんニッケル以外の材質の弦も売っていますけど、余程こだわりがなければスタンダードなニッケル弦を使います。……というか弦の質ではなく素材をこだわるのはギタリストの中でも一握りの変態しかいません。むしろ材質よりも弦の太さゲージとか、あと値が張るけど長持ちするコーティング弦か否かとかの方が好みが分かれるので、尋ねるとしたらそちらではなかろうかと思いましたが、しかししんのが一握りの変態ギタリストである場合もあるため、一概に不自然な会話と言い切ることもできません。一般的ではないけど会話の辻褄は合っているといったところ。よって個人的にしんのとあおいは変態だという解釈をしました。あと弦が錆びている様子が映るシーンにおいて、弦の錆び方がリアルな感じでしたので、本当によく観察して作画されているのを痛感させられました。

 といった具合に、楽器マニアからすると楽器アニメとして衝撃作であり、正直個人的には恋愛がどうとか姉妹愛がどうとかもうどうでもいい感じになっています。多分劇場内でこんな頭のおかしい楽しみ方をしていたのは私一人だけでしょう。本来の話はとても感動的で素晴らしい映画なのですが、自分は根本的に楽しみ方を間違えたみたいです。

 そんなこんなで、この『空の青さを知る人よ』という映画は、ラブストーリーではあるもののメインは姉妹愛や夢とかを描いた作品だったということです。そして楽器マニアの人は楽器作画ばっか興奮していないで本編のストーリーを楽しみましょう、といったことをこの記事で伝えたいです。

 あと注意する点といえば、この作品は13年前のしんのが現代に現れるという設定ですが、このあたりの現象の説明や謎の解明などは劇中で明かされることはなく、またクライマックスシーンでの空中浮遊もとくに説明的な描写があるわけではないので、深く考えずにありのまま受け入れてください。

 というわけで、劇場アニメ『空の青さを知る人よ』についてでした。

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