【漫画】『ハーモニー』原作へのリスペクトによるオリジナル要素が素晴らしい

※この記事は、小説投稿サイト「カクヨム」にて2019年3月21日に公開されたものを一部修正して転載しています。

カクヨム版

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054888788446

 前回に引き続き今回も故・伊藤計劃の遺作『ハーモニー』について。今回はコミカライズ版です。前回は少々長くなってしまいましたので、今回は控え目に。

 コミカライズ版『ハーモニー』は、月刊ニュータイプ創刊30周年記念企画としてコミカライズが決定され、『月刊ニュータイプ』(KADOKAWA)2015年5月号より連載中。(Wikipediaより引用)

 時期的に劇場公開にあわせたコミカライズ企画ではないでしょうか。キャラクターデザインや各種設定も劇場版に準拠していますしね。

 一応あらすじ(コミック1巻の裏表紙より)

 息苦しい世界の中で、自分に居場所をくれた少女がいた。彼女を失って13年後。もうひとりの友は、彼女への謝罪の言葉を残し、突然、命を絶ってしまう。――ごめんね、ミァハ。 世界各所で同時多発した自死事件と友の死の真相を追い、螺旋監察官のトァンが動く。

 コミカライズ作品ということもあり、基本的には原作小説を忠実に再現しています(というかコミカライズがそもそもそういうものだと思います)。コミカライズになった途端大改変して全くの別物になるわけがない……はず。すみませんコミカライズに関する事情を詳しく把握していませんので何とも言えないですが、イメージとしては原作通りに描くのが筋なのかと。

 ただこの『ハーモニー』のコミカライズは、大胆なアレンジが施されています。

 一番大きいところとしてはストーリー展開ですかね。漫画第1巻はほぼ過去回想がメインであり、おまけ感覚で大人パートを進めていく感じですかね。原作小説も序盤に回想パートがありますが、漫画版は序盤で学生時代パートを消化していくような勢いです。大人パートもそれに合わせて結構テンポよく進みます。

 ただ改変しているのが構成面だけではありません。漫画『ハーモニー』には所々でオリジナルシーンを入れているのです。

 たとえば学生時代のシーンでは、原作だと主に教室の場面だったり、あとはトァンとミァハの出会いのシーンとして公園が登場するのが印象的かと思います。漫画版でも教室も公園も登場しますが、それ以外にも講堂(?)とかプールとか、あと廊下などの学校施設内が登場しますし、登下校路やはたまたショッピングモールに寄り道するシーンも登場します。場面がバラエティー豊かになったとでも言いましょうか、学生らしい日常の風景を背景にすることで、より青春の一面を強調するかたちになっていると感じました。

 また学校内ですと他の生徒(モブキャラ)も描かれています。これがまた誰もが無条件に幸せそうな笑顔を浮かべており、『ハーモニー』が描く作られたやさしさの空気を絵的に表現しつつ、同時にその空気に馴染めない主人公たち三人の孤立を際立たせているかのようで、『ハーモニー』のビジュアル化としてはとてもうまい演出だと思います。

 さらにこうしたオリジナルのシーンに合わせて、独自に解釈された設定等もあります。トァンとミァハの公園のシーンでは、原作だと「ジャングルジムは金属でできていた」と、前時代では危険なものだったというトァンのうんちく描写がありますが、漫画版だと歩道と車道を遮るポールに変更され、転倒する子供をポールが感知し変形することで子供を助けるシーンとなっております。またトァンが実際に車道へ飛び出し、自動運転する車両が自動で回避する描写も新たに加えられています。

 こうした原作にない、原作から解釈次第で膨らませることができる要素を足すことで、『ハーモニー』の描く生命主義社会をより細かく掘り下げている感じです。

 あと細かいシーンの差し替えや入れ替えなどもあります。例をあげると、トァンがキアンの死の真相に気がつくタイミングが少し早めだったり、「宣言」の裏にある黒幕の存在の察し方だったりと、原作から微妙にアレンジしています。ガブリエル・エーディンと接触するシーンでは父親の話題が挟まれますが、これ確か原作にはない場面だったかと思います。

 このような感じで、コミカライズされた漫画版『ハーモニー』は、原作小説とは少々異なる展開となっております。本筋のストーリーは合わせつつ、原作の小説では拾いきれなかった部分を補完するかたちでオリジナル要素を加えているのです。オリジナルはオリジナルでも原作へのリスペクトがひしひしと伝わって来ます。それだけ漫画版の企画は相当原作を読みこんで挑んでいるのだと感じました。

 漫画版『ハーモニー』はコミカライズものとしては大当たりなのではないでしょうか。とてもクオリティが高く、原作ファンももちろん初見の方でも楽しめる作品に仕上がっています。補足的なオリジナル要素と、なにより絵としてのビジュアル化されていますので、気軽に『ハーモニー』という作品に触れられる貴重な一冊だと思います。

 ただですね……コミカライズ版は今、二巻までしか出ていないんですよ。

 話的には、ちょうどガブリエル・エーディンとの面会シーンが終わったところです。もろ中盤です。実際月刊ニュータイプの連載がどうなっているのかわかりませんが、しかしweb配信の方は更新が続けられており、現在32話です。二巻が18話まで掲載されているので、連載的なストックは充分なはず。あの……三巻はいつに? 二巻が発売されたのもう二年前なんですけど……。

 ニュータイプの配信版はこちら

https://comic.webnewtype.com/contents/harmony/

 32話を少し覗いてみたところ、ちょうどトァンと例の人とが対峙する場面で、思いっきりクライマックスシーンでした。二巻(18話)からの分が配信されていないのでどういう展開になっているのかは把握できませんが、原作と照らし合わせるともうすぐ完結するのではないでしょうか。つまり三巻は連載終了してから発売? それはいつだ!?

 まあこんな感じで、コミカライズ版は現在中途半端なところで止まっています。

※ブログ版追記

2019年11月にコミカライズ版『ハーモニー』の3巻及び4巻が発売されました。

 伊藤計劃作品を読んだことがなく、またSF作品に不慣れな方にとっては、原作小説からではなく漫画版から入った方が呑み込みは早いかもしれません。漫画版はとにかく親切丁寧わかりやすいです!

 ……そういえばWikipediaに書かれていてはじめて知ったのですが、『ハーモニー』は一迅社のコミック百合姫でのコミカライズ企画もあったらしいです。百合姫版『ハーモニー』を読んでみたいのですが……詳しい情報が皆無です。企画なくなってしまったのでしょうか? 残念ですが、もし何かの機会があれば、一迅社さんお願いします!

 というわけで今回はコミカライズ版『ハーモニー』のお話。

 そして、次回は劇場版『ハーモニー』の話です。次もよろしくお願いします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です